鹿島美術研究 年報第14号
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像主のありのままの姿を必ずしも写したものと言えない。この種の肖像の多くは老年の姿をあらわしていると思われるが,像主の老いた様をほぼそのまま写すということも,興国寺・無本覚心像などを除けば,きわめて稀れである。この種の肖像彫刻を,実際に仏師がどのように製作したかを具体的に示す資料はないが,おそらく紙型や画像などをもとに,像主の様々な情報を入手しながら造像することが多かったように思われる。平面に描かれたものをもとに立体に造り上げることは,仏師にとっては通常のことであり,力量さえ備わっているならば,これをきわめて写実的に再現することも十分可能であろう。これらのことを前提とすれば,写実性に優れているが故に舟像であるとか,あるいはこれに劣るが故に像主の没後の作であるといったことは必ずしも言えないのである。禅僧肖像彫刻を体系的にとらえるのが困難であるのは,正しくこの点に関わっているように思われる。-26

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