研究目的の概要① 15世紀フェッラーラ派絵画の図像学的研究研究者:東京大学大学院人文社会系研究科博士課程京谷啓徳スキファノイア宮殿の壁画の図像研究は,ヴァールブルクによる歴史的講演(1912)以来,イコノロジー研究の主要論点の一つであり続け,これまでに多くの論考が発表されてきた。近年も活発な研究が行われており,1989年に出版された論文集「Atlanteな保存状態のためにこれまで総合的にその図像が検討されることはなかった。この画面に見られるモチーフを多少なりとも特定しようとした試みは,管見の限り,バルジェッレージ(1945),チェリ・ヴィア(1989),リッピンコット(1990)の三者のみである。これらにしても,それぞれの個別の議論の文脈の中で特定モチーフの意味の指摘のみがなされたに過ぎず,画面全体の意味内容が詳細に検討された訳ではない。よって「12月」全体のモチーフを同定しようとする本研究は初めての試みであり,意義あるものと言える。また,近年のスキファノイア研究においてはしばしば,ある単独のモチーフの同定,典拠の指摘がなされるものの,それがあまりに個別的で,そのモチーフの選択が壁画サイクル内でいかなる意味を有しているかということへの配慮に欠けることは否めない。それに対して本研究は,単に「12月」に描かれたモチーフの典拠を明らかにするのみならず,研究計画において述べたように,それらの典拠が用いられた理由を,「エステ家の起源としての古代ローマ」,「未来におけるエステ家の存続」という点に見いだし,同様の視点を他の月に描かれたモチーフにも適用することによって,壁画サイクル全体のプログラム解読に対しても新たな視野を提供するものと期待される。同様の方法は既にマンテーニャによるマントヴァ,統領宮殿の「夫婦の間」の図像プログラム研究にも用いられているものであり,宮廷美術の性格,特徴を考察する上でも資するところ大であると思われる。di Schifanoia」は,その総決算とも言える。にもかかわらず,「12月」上段はその劣悪_ 37
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