② ディドロ『絵画論』の文化史的研究研究者:東京大学大学院人文社会系研究科教授佐々木健一4つに分けて,研究の目的を説明したい。第1は過去の藝術を研究する目的,第2には何故18世紀に注目するのか,第3にその時代が絵画の時代であるということ,第4には18世紀研究におけるディドロの美術理論の意義である。現在われわれが鑑賞している藝術作品は,美術であれ音楽であれ,またその他の藝術であれ,その多くは過去のものである。厳密な意味での現代藝術への関心は,特に若者を中心として高まっているが,やはり少数派である。しかも,現代の藝術は過去の歴史(藝術史と藝術思想史)を前提としているから,この歴史の知識なくしては理解が難しい。そこに藝術に関する歴史的研究の必要性が生まれる。しかし,その研究に際しては,その時代において藝術がどのようなものとして理解されていたか,という点の認識が重要である。それはその時代の藝術作品を理解するためだけでなく,現代の文化状況にとっても重要である。現代は藝術のあり方そのものが大きく変化しつつあり,歴史研究を通して藝術概念の多様化を認識することが,未来への展望を拓くうえで不可欠だからである。では何故18世紀に注目するのか,と言えば,それが,現代の常識を構成している近代の直前の,しかし近代とは異質な時代であって,常識の異化に好都合だからである。しかも美術に関しては,その様式には現代の趣味に通じるところがある。18世紀は絵画の時代である。すなわちあらゆる藝術が絵画を模範として,絵画のあり方に到達することを求めた。その意味するところは,18世紀の文化状況が《絵画性》を理想として要求した,ということである。ただし,その《絵画性》はあくまでも18世紀的に理解しなければならない。18世紀において《絵画》が何であったのかを正しく理解するためには,当時の絵画論を研究することが先決である。ディドロの絵画論は間違いなく18世紀における最も重要な著作である。理論が当時の先端的な美術を基礎としていること,個性的でありつつ当時の代表的な複数の思潮を映し出していること,そして思想の深さの点で傑出している。これをその多面性と深さのままに理解することが,重要なのである。_ 38 -
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