し,明治から大正にかけて,文学と美術,それに美術にしても洋画,日本画といったジャンルや区分が余りはっきりされず,それよりも,芸術の総合性を目指した態度で作家たちは創作活動を行っていたように思われる。このことは明治,大正期の芸術家の芸術観の一端を表しており,乱痴気騒ぎの会のように思われる『パンの会』も,術の総合性という点では,実はとても重要な集まりであったと考えられるのである。そして『方寸』の連中の雑誌編集にしても,雑誌自体復刻されてはいるが,より突っ込んだ調査をする必要がまだあるように思われる。山本鼎や小杉未醒らの夢見た理想を明らかにする必要もあろう。また,当時の『方寸』の版画や複雑な製版印刷についても研究する価値は十分にある。いずれにせよ当時の美術と文学の融合を色々な角度から検討することによって,その芸術思潮をダイナミックに浮き彫りにしてみることが主眼である。それはさらに,明治以降の日本の文芸思潮における耽美主義の重要性をあらためて実感できる機会となりうるのではないだろうか。⑤ 1970年代の美術におけるミニマリズム的な傾向についての研究研究者:滋賀県立近代美術館学芸員尾崎佐智子研究者は滋賀県立近代美術館に勤務し,現代美術を主たる対象として研究や展覧会企画を行ってきた。当館では戦後アメリカ美術の名品の収集が続けられ,ミニマル・アートについても,リチャード・セラ,ドナルド・ジャッド,カール・アンドレ,ソル・ルウィットらの重要な作品がコレクションに収められている。また一方で,日本の戦後美術に関しても桑山忠明,山田正亮らのミニマリズムの傾向の作品が多く収蔵されている。本研究によって,従来あまり関連付けられることなく収集,展示されてきたこれらの作品を有機的に結び付けた展示や公開の可能性が大きく広げられ,美術館の収集,展示活動への還元が期待される。単に研究が一つの発表にとどめられるだけでなく,研究者が学芸員である以上,美術館の活動に反映されることの意義は極めて大きい。またこの研究によって,これまで本美術館では扱われることの少なかったヨーロッパの現代美術の収集や展示企画についても従来の活動と関連させたうえでの方針を立てることが可能となり,研究の結果が日常の美術館活動の充実へ直接生かされることと-40 _
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