鹿島美術研究 年報第14号
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なるだろう。⑥ 俵屋宗達研究への新たな指標〜烏丸光廣の花押をめぐって〜研究者:帥出光美術館学芸員笠嶋忠俵屋宗達については未解決の問題が甚だ多く,中でも作品の制作年代とその様式的変遷の問題は最も重要で具体性,客観性の高い成果がまたれている現況である。しかしながら根本的に文書史料の不足ほかが災いし,又年記を有する作例が乏しいことは揺るがぬ事実であって,この点が若干なりとも解明すれば,宗達作品の作風変遷も状況証拠により大いに明らかとなる。今回の研究は俵屋宗達に関連する烏丸光廣について詳細かつ精緻な調査研究を目指すものであり,必ずや研究の新たな基盤となり得るものである。俵屋宗達筆と称するいくつかの作品に,書家として烏丸光廣が賛文を書いたものがあり,それらの一部には光廣が花押を付している。これまでも私は光廣の書について研究してきたが,彼は公式な書類(鑑定の極め書)や書状など広く花押を使用しており,その花押の形態は晩年までの間,徐々に変化していったものと推定される。したがってこれら花押の変遷過程を解明すべく,広く有年記資料を求めて精緻な実態調査を行えば,具体的な一指標が出来る。その結果を宗達作品の中にある烏丸光廣の花押と照合することによって,これまで不明であったいくつかの宗達作品について,制作年代を特定,あるいは時期の限定ができることとなる。更に出来あがった資料に客観性,普遍性を与える為,同時代の別例についても調査研究する。⑦ 1929年の古賀春江をめぐって研究者:石橋財団石橋美術館古賀春江(1895■1933)が《海》(東京国立近代美術館蔵)などの作品を二科展で発表した1929年は,彼の後半期の出発点として,いわばシュルレアリスムヘの転換の年として注目すべき年である。と同時に,この年はまた,この前後に時代の潮流が大きく変わっていることが感じられ,日本の美術の歴史のうえでもひとつの転換の年とと杉本秀子41

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