鹿島美術研究 年報第14号
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らえることができるように思えるのである。古賀の1929年の転換を内的転換としてだけでなく,彼をとり巻く時代の潮流のなかでとらえ直し,その転換をもたらしたさまざまな要因を,彼の絵画の形成過程に,あるいは時代(画檀内部についてはもちろん,思想・文学・大衆娯楽など)とのかかわりのなかに探ることがこの研究の目的である。そして,古賀春江が時代のなかで果たした役割もさらに明確にできればと考えている。この1929年の前後に表れた興味深い動きを,たとえば画壇内部に限ってあげれば,シュルレアリスム(超現実主義)やメカニズム(機械主義)が流行し(この両者は時として混同される),プロレタリア美術が盛んになるのが,まさにこの時期なのである。加えて,急激な都市化に伴い,杜会そのものが大きく転換したのもこの頃のことである。古賀春江の1929年以降の絵画は,このような時代の動きに対応するかたちで生まれたにちがいない。古賀春江が画家として活動した1920■30年代の時代の状況をあらたな視点で読み直すことで,1929年の転換が,古賀一個の転換にとどまらず,時代そのものの転換であることが明らかになり,さらに,1929年以降の古賀春江が時代の体現者としてだけでなく,時代の先導者としての役割をも担っていたことが明らかになるのではないかと考えている。⑧ ゴーギャンの彫刻とそのコンテクスト(1870-1907)ーーロマン主義からプリミティヴィスムまで一一研究者:多摩美術大学他非常勤講師廣田治本研究は,カタログ制作と美術史的考察の二部から成る。ゴーギャンの彫刻類の作品カタログは,1960年代に二人の研究者(M.BodelsenとC.Gray)によって出版されており,これらは今日なお基本的文献としての価値は失っていないものの,30年以上の歳月の間に見い出されたものも少なくなく,新たなカタログ制作は時宜に適っていると思われる。また美術史的考察に関しては,彫刻の分野における近年の研究の躍進の中でゴーギャンの彫刻を捉え直すことは重要な課題であろう。陶器を含めた彼の彫刻作品の革新性は,最近とみに言及されるようになったが,それらの説くプリミティヴィスムにおける価値,及び後代に与えた影響の実証的な研究は未だ十分とは言えない。また,ゴーギャンが受けた影聾及び19世紀の枠組の中での-42 _

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