鹿島美術研究 年報第14号
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位置に関しては,さらに多くの研究の余地が残されている。これらの問題点を考察しながら,ゴーギャンの彫刻作品のみならず,19世紀彫刻史のもつ不明な部分の解明を試み,また,ナビ派や象徴主義からキュビスムに至る作品との比較を通じて,彫刻のあり方をめぐる様々な追究の性格を明らかにしていきたい。たとえば,前者に関しては1870■1880年代におけるロマン主義彫刻の復活を検討し,後者の問題については,ラコンブ,カリエス,初期のマイヨール等,ゴーギャンと直接関係のあった芸術家をはじめ,カラバン,プルーヴェら世紀末の特異な彫刻家たちとの比較,1906年のゴーギャンの回顧展を契機とするピカソ,ドランたちへの影特の考察を行ないたいと考えている。⑨ 木版本『黙示録』_その制作年代,図像表現,後世への影響についての研究研究者:町田市立国際版画美術館木版本制作年代を1440年頃からとする従来の考え方からすれば,それは手写本から印刷本への移行期の中にあって,その両者をつなぐ役目を果すものと捉えられる。他方,1450■60年代に制作されたとみなす近年の説が妥当であるならば,いくつかの疑問点が浮びあがってくる。木版本は1枚の版木に文字と図像を同時に彫り出し,通常,紙葉の片面のみに刷って綴じ合せ,書籍仕立てとしたものである。活字が既に使われ始めていたのであれば,文字は活字を使う方がはるかに能率的である。また紙は既に広範囲に普及していたが,決して安価ではなかった。従って,紙の片面しか使わない木版本は,経済効率の面では非常に不利である。にもかかわらず,ネーデルラント,ドイツなどを中心に,一定部数刷られ,そのうち何種かは多くの版を重ねている。これは何故であろうか。その理由を明らかにし,木版本の読者層や,用途に迫ることができれば,まだ完全に解明されていないヨーロッパ初期版画の実際的な側面に光をあてることができる。また図像表現の上では,木版本は,手写本から印刷本の挿絵や独立した版画作品へと受けつがれてゆく図像体系の重要な担い手であった。その意味で本研究では特に,「黙示録」の手写本と木版本の表現に的を絞り,その受容と変遷を明らかにしたい。-43 -佐川美智子

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