四つの故事人物の主題を集めたものの他に,「唐十八学士図」「香山九老図」などがある。本研究ではこれらの絵画に焦点をあて,図像の変容の中で再把握を試みるものである。まず画像を伴ったデータベースを作成し,それぞれを様々なレベルで比較検討し,図像の変容のあり方を一つの座標軸として提示することで,伝承と実制作年代の隔たりがあまりに大きく研究対象となりにくかったこれらの絵画の史的位置を明確にしていきたい。⑬ カラヴァッジオ作『蛇の聖母』の図像研究研究者:佐賀大学文化教育学部講師とクロノロジー研究を中心に展開されてきたといってよいが,1980年代から90年代にかけてのカラヴァッジオ研究の大きな特徴は,新しく発見された作品のアトリビューションと技法研究(ここ数年の間にとくに盛んになってきた),そして,精密なリサーチに基づいたカラヴァッジオの注文主と作品の図像の関係を究明しようとするアプロチにある。この第3のアプローチによっては,それまであまり問題にされることのなかったカラヴァッジオのパトロンたちが俄に注目されることとなった。一例を挙げるならば,マッテイ家やラエルツィオ・ケルビーニらのパトロン像が浮き彫りにされ,彼らの思想や芸術作品のコレクターとしての主義が,カラヴァッジオ作品の革新的な図像や構成に与えた影聾が明らかにされた点である。このような研究の成果により,カラヴァッジオの作品を,単に対抗宗教改革という大きな時代背景のなかでのみ捉える従来のカラヴァッジオ研究は大きく前進した。本研究も,このような近年のカラヴァッジオ研究に連なる研究のひとつに位置づけられる。『蛇の聖母』(1605-06)は前述のように,カラヴァッジオがローマで得た最後の公的な作品のひとつである。この作品には,完成してサン・ピエトロ大聖堂内の祭檀に設置された直後に取り外され,バチカン内のサンタナ聖堂に一時飾られた後,結局はシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿によって購入されたという経緯がある。『聖母の死』の場合と同様,この「拒否事件」が大きなスキャンダルとして伝えられてきたが,拒否の原因は作品の周囲にいた厳格な対抗宗教改革者たち(パウルス5世,トロメオ・ガ第2次世界大戦後から今日にいたるまでのカラヴァッジオ研究は,作品の図像研究住磨子-46 -
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