慶應義塾大学訪問研究員-47 -ミッシェル・バンブリングッリ枢機卿)が革新的な図像を拒絶したところにあるとする研究者たちの仮説は,1970年代に提出されたまま,その後の研究は大きな進展をみていないのが現状である。者は,これまで調査が及ぶことのなかったこの祭壇画の注文主であるパラフレニエーリ同信会について調査し,同同信会が作品の図像に何らかの示唆を与えていたという仮説のもとに,同同信会から画家へ注文が出された経緯,同同信会とバチカンの改革派との関係,そして同同信会と作品拒否のかかわりなどについて研究を進めたい。それによって,『蛇の聖母』という特異な図像表現の意味と,画家と注文主との新たな関係が解明され,ローマ時代のカラヴァッジオの作品制作に関する構造(注文主と画家の関係,実際に作品を享受した対象と画家,および注文主の関係)が明らかになると考える。⑭ 金剛寺蔵の日月山水図屏風について研究者:コロンビア大学大学院博士課程私のコロンビア大学に提出する博士論文は,最近の美術史研究が中世期におけるやまと絵の重要性を明らかにしつつあることを,これまでよりもいっそう広い視点で進展させることを目指すものです。日月山水図について博士論文では,古代中国におけるその起源から現代にいたるまでの発展を辿り,東アジア美術において日月が屏風絵の最も古くから続く主題の一つであることを明らかにします。金剛寺本は,天皇に関わる神聖な意味を担っており,その点で密教寺院と深い関係を有していた南朝と繋がるものであることを示します。金剛寺本の日月山水図に含まれる宗教的・王朝的意味は,後に,同じ日月や四季の図像を使用して純粋に装飾的な意図のもとで世俗的和歌の世界を描いた山水図に優先します。金剛寺本にみられる聖から俗への象徴的な移行および工芸技術と大胆かつ単純化された風景要素,ダイナミックな構図の融合は,17世紀の琳派の出現を先触れする重要な要素をなすものです。
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