9版全体を通して,比較的一貰した体裁を持っている点などが,類似の書(『京羽二重』批判的な検証や利害に捕われない客観的な批評活動も乏しいのが実状である。フランスのパブリック・アートは海外諸国におけるパプリック・アートの有力なモデルの一つとなってきたものであるが,その調査研究は,日本での建設的な批評活動に役立つ情報を提供し,今後のパブリック・アートのあり方を考えていく上で大きな意義をもつと考えられる。本研究では,作品論よりも,とくに作品が都市環境に組み込まれる社会的なプロセスを明らかにすることがねらいである。パブリック・アートは芸術を社会に統合する実践的な試みであるために,その調査研究には学際的な視野の広がりが求められる。本研究では,フランスの新都市整備事業と密接に関係するパブリック・アート計画の理念,計画実施の各段階における調整機能,環境との統合のプロセスなどを,問題点も含めて明らかにすることによって,芸術を杜会に効果的に統合するうえでの課題を摘出し,今後の実践に結びつけたい。パブリック・アートのあり方は諸外国の政治的・文化的背景の違いを反映して多様である。それらの差異を明らかにすることは,日本のパブリック・アートのあり方を考えてゆく上で必須と思われる。このため,本研究の次の段階として共同研究方式なども考慮しながら,日本をはじめイギリス,ドイツ,スペイン等国別の実地調査を継続して,現代のパブリック・アートの全体像を探る総合的研究に発展させたいと考えている。⑰ 『平安人物志』に登場する画家の研究研究者:京都府京都文化博物館学芸貝田島達也近年,日本全国に美術館・博物館・資料館がいきわたったため,地方の画家については,地味ながら着実に研究が進んでいる。それに対して,京都生まれ京都育ちの画家については,数が多すぎることもあって,網羅的に調べた研究はあまりない。従って,皮肉なことに地方出身ならもっと研究されるであろう画家が,京都出身であったばかりに埋もれているのである。この分野の研究レベルを地方並に引き上げる必要を切に感じる。その意味で,まず手を付けるべき原点としてふさわしいのが『平安人物志』だと思われる。幅広い時代をカバーする点,各流派のバランスがとれている点,49 -
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