鹿島美術研究 年報第14号
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⑬ 南薫造・永瀬義郎,疎開時代の活動研究〜疎開が残した中央画壇の地方への影響〜研究者:竹原市立たけはら美術館地方の時代が叫ばれて久しい今日,文化の発信拠点はいずれとして中央に偏っている。確かに,地方における美術館の数は着実に増加し,中央の優れた作品・世界の第ー級の作品が,地方をくまなく巡回するようになったが,それらの芸術に触れて自ら芸術家をめざす者は,総じて活動の場を中央に求めて地方から出ていく。地方に文化の根が育たない状況は,なんら変わらないのである。そうした状況のなかで,疎開という特殊な状況下にあったとはいえ,中央の芸術が地方に流れ,それを中心に一つの文化が芽生えかけた時期が近現代に存在していたという事実は,注目に値する。また一方で,今日の研究者も中央ないし地方の大都市に偏っている関係上,この時代,疎開の地として選ばれたところの研究はまだまだ手つかずの状態にあり,50年という時間の隔たりが,戦争の風化とともに,その前後の文化状況をも消し去ろうとしている。これらのことから,本研究は,南癒造・永瀬義郎の疎開時代の活動をたどることで,戦時下という特殊な状況の下での芸術家の一面を明らかにしていくとともに,近代芸術に大きな足跡を残した二人の作家のいまだ明らかにされていない部分に光を当てることで,その作家ひいては近代日本美術史全体の解明に一つの新たなる視点の提示を試みるものである。また,その中には,いまだ発掘されていないままの作品・資料を発掘保存し,当時を知る関係者から直接聞き取り調査をおこなうという近代日本美術史学上急務な課題をも含んでいる。⑭ オルドス青銅器文化に於ける動物意匠とその周辺研究者:神戸大学大学院文化学研究科博士課程オルドス青銅器文化に於ける動物意匠の時代区分と特徴について,ことにオルドス青銅器文化研究の考古学的段階から,実際の工芸品に即した美術史的な考察を加え,その動物意匠の典型的な図像と様式がどのように形成されていったのか,またどのように変遷をとげていったのか,更にその理由は何なのかをさぐり,オルドス青銅器文化に於ける動物意匠の起源とその周辺との関係を明らかにしようとするものである。すでに記したように,従来の研究は起源問題ばかりに偏重するあまり,動物意匠の古谷可由-55 -杜瞭帆

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