様式変化を軽視し,又,動物意匠の生成,発展,消滅という脈絡から切り離し,いずれも決定的な論拠を欠き十分な説得力を持つに至っていないのである。オルドスに於ける動物意匠の起源問題を分析するにも,まず,動物文様の分類,動物意匠の図像的変化と様式上の変遷ということに注目しておくべきであろう。ここ数年,内モンゴル伊克昭盟と寧夏固原地区での考古発掘により,ようやくオルドス青銅文化に関する本的な類型と年代の研究が以前よりやり易くなってきている。しかし,出土品の類型がまだ十分ではなく,尚且つ現在日本,アメリカの博物館に分蔵されている数多くのオルドス青銅器が整理されていないので,その動物意匠については充分な成果が得られていないのが実状である。オルドス青銅器文化における動物意匠の成立過程を解明する為には,これらの日本,アメリカの博物館に所蔵されているオルドス青銅器の実地調査と資料収集が不可欠の作業である。⑮ 19世紀フランス・レアリスムにおける「皮膚」表現の研究研究者:大阪大学大学院文化研究科博士後期課程藤原貞朗「構想」_レアリスムの絵画を形容する最も通俗的な比喩として「写真のように現実を写した」という言い方がある。当然のことながら,この比喩は写真が誕生する1840年代以前にはありえなかったものである。それ以前には,写実的な作品には「鏡」や「鋳型」の比喩が用いられた。特に「鋳型」の比喩は「写真」や「鏡」と描写対象との距離が異なっている点で重要なものである。「写真」や「鏡」は対象とある程度の距離を取ることなしには「写す/映す」ことはできないのに対して,鋳型は対象に「密着」してあたかも対象をそのままに「移す」かのように複製する。それゆえそこから一種「倫理性」に抵触する問題が生まれてくる。また鋳型で取られた彫像は芸術とされなかったので,この比喩は作品の芸術性に触れるものであることも明らかである。それゆえ,「レアリスム」の問題は,なぜ鋳型が「倫理」に抵触するのか,なぜ「芸術的」でないのか,という様々な問題と同根であることがわかる。対象と倫理的な「距離」,直接「触れて」「写し取る」ことの意味などが,レアリスムの表現において問題化されたことが想像される。「その意義価値」_レアリスムを絵画や文学に限定することなく,彫刻の問題としても同時に考えることができる。また芸術と19世紀の医学との関係も少し考察の射-56-
元のページ ../index.html#82