敦燈においては弥勒経変相図は主として隋〜唐の諸窟にあらわされているが,早期のものでは弥勒上生経に説かれる兜率天宮中の弥勒菩薩の図像が中心となっているのに対し,初唐以降は弥勒仏の龍華三会の説法が画面の中心を占めており,このような変化は弥勒信仰の展開を反映したものと考えられる。本研究は弥勒経変相図の変遷を図像上から詳細に検討することにより,その背景となる信仰の性格を明らかにしようとするものである。さらに,弥勒経変相図の表わされる位置や他の変相図との組合わせ,石窟本尊との関係などを総合的に検討し,石窟全体の壁画の主題構成にみる時代的特徴や石窟造営の思想的背景について考察してゆきたい。⑪ 菱田春草の作品世界における伝統研究者:東京大学大学院人文社会系研究科博士課程金周知のように菱田春草は明治時の重要画家の一人で,近代日本画の成立の上で大事な役割を果した画家の一人である。東京美術学校を中心に行われた伝統絵画の近代化の過程で春草は日本,中国の伝統絵画を吸収し,それをもとに自分の作品世界を構築しており,その作品世界において伝統絵画の影響は非常に大きい。本研究では春草の作品世界における伝統関連部分を究明し,伝統絵画からの影響がこれまでいわれてきたよりもっと具体的で大きかったのを明らかにするとともに,その伝統参考が明治以前のそれとはどのような共通性と,どのような違いを持っているのかを考察する。またこれを通して春草の作品世界が持っている伝統との連続性だけでなく,それ以前にはなかった新しい近代性とはいかなるものかが自然に明らかになると思われる。従ってこの調査研究は,春草の作品世界における近代性,さらに明治日本画の近代性についての論議を進めていくための大事な前提条件を充足させるという意義を持つことになる。今の構想としてはこの調査研究の結果を基に,科学技術の進歩や物質的な繁栄を背景にしたヨーロッパ美術中心の近代性(modernity)論議からの脱出を試みたい,そして西洋という他者への対応も重要なー側面を占めている東アジアの近代美術が持っている近代性についての論議を進めていきたい。要するにこの調査研究は東アジア近代美術の近代性の論議において重要な土台になるといえる。容激-61-
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