⑫ 狩野一渓著『後素集』の校訂研究者:東京芸術大学非常勤講師北野芳枝本研究の目的は,近世絵画史の重要な史料である『後素集』を原本により近いかたちに復元し,近世絵画史研究における基礎資料を作成することであるが,同時に校訂作業を通して,『後素集』を著すにあたり著者一深が依拠した文献史料・絵画史料を確認し,未だ明らかでない『後素集』成立の経緯についても考察を進めたい。⑬ 中国仏教造像碑の調査研究ー一中国国内所在作品を中心に一一研究者:恵泉女学園大学非常勤講師石松日奈子本研究の目的は実査によって基礎的データや写真を入手し,中国仏教彫刻史研究の有益な資料として紹介し,活用することである。造像碑に関しては,中国国内には今も未発表の作品が数多く存在し,その価値が知られないままに破壊されかけているものもある。発表済みの場合でも,中国側の調査報告は写真が不鮮明かつ不十分で,銘文についても全文を掲載することは少なく,特に銘文の文字を中国で現在使用している簡体字に書き換えてしまうため,銘文の正確な内容を知ることが難しい。一方,作ゆきの優れたものの多くは日本や欧米各地に流出し,博物館や個人の所蔵となっているが,欧米においてもこの方面の研究者が極めて少ないために,陳列されることなく,保管庫内に放置されている場合も多い。そのため,これらの造像に関する基本的な情報は著しく不足していると言わざるを得ない。さらに,この種の造像ではいわゆる“偽物”も存在し,図版で見る限りでは立派な作品が,実際に見ると問題のある作品であったというケースも過去に経験している。従って著名な作品であっても改めて「実見」する必要性を強く感じている。以上,本研究を実査を行うことに意義がある。海外に出かけて行って調査することは,様々な困難を伴う作業であるが,しかし,実査によって得た正確なデータであればこそ,資料としての価値も信頼性も高いのである。-62
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