鹿島美術研究 年報第14号
94/114

@ 近代日本画にみるアイヌ風俗画ー一本間莞彩と北海道画壇を中心に一一保持していたのである(このような地域を「小文化センター」と呼ぶ)。さらに小文化センターのなかには従来南朝文化・北朝文化として対立的に分けられていた文化要素の両者を併せ持つ地域があることがわかってきたのである。以上のことからこれまでのような南北の対立的な枠組みが実態に即していないことはあきらかである。今後は中国各地の文化センターを比較検討する,といった研究の枠組みが必要である。しかし各地の文化センターについてはその実態の把握が遅れており,従って現時点ではまず各地域の文化センターのあり方を具体的な資料に基づき解明することが求められている。研究者はこのような考えに立ちこれまで1995年には鹿島美術財団の助成を受け,挟西省南部における小文化センターの調査・研究をおこなっていた。報告書は現在作成中であるが,今回は継続研究として山東省地区を検討の対象とし,南北朝時代における文化的な特質の解明をはかるものである。研究者:北海道立近代美術館学芸員土岐美由紀研究者は,「北国の抒情一本間莞彩展」(平成8年・北海道立近代美術館)の企画に携わり,昭和期の北海道日本画壇の牽引者であった本間莞彩(明治27〜昭和34)の画業調査を行った際,莞彩を中心とする北海道の近代日本画檀において,昭和の一時期,アイヌを主題とする作品が多数制作されていたことを知った。この動向は,18世紀前期から明治維新頃にかけて,幕府や諸藩の興味関心に対応して盛んとなったアイヌ風俗画の制作とは性質を異にし,近代的な造形意識のもと,アイヌを主題とすることにより,風土性の強い独自の表現を目指したものであったと考えられるが,本格的な調査研究は行われていない。本研究は,このアイヌを主題とする近代日本画について,制作の実態と表現,さらに制作の思想的背景に関する集中的な調査考察を行うものである。総じて低調気味であった北海道の日本画については,中心的作家の個別的な画業研究や団体史研究にとどまる傾向が強く,画壇の動向を作品の表現や画題という側面から考察した研究が少なかっただけに,北海道の近代日本画の特質と展開を探る上で,大きな意義があると考えられる。同時に,こうした作品は中央画壇で発表されたものも少なくないことか-68 _

元のページ  ../index.html#94

このブックを見る