ら,北海道に限らない近代日本画の表現にみる風土性の諸相について,ー側面を明らかにすることが期待される。また研究者は,近代日本画におけるアイヌ風俗画について,地域や時期を区切らない総体的な研究を最終的な目的としており,本研究はその一部としての価値も有する。⑫ 13世紀フランスにおける旧約聖書主題のステンド・グラス研究者:お茶の水女子大学文教育学部哲学科教務補佐守山実花ゴシック初期のステンド・グラスに関する研究は美術史研究においては困難な分野とされ,その研究は充分なされてきた,とは言いがたい。シャルトル,ブルージュといった大規模な大聖堂についてさえ,総合的な研究は行われてこなかった。現存するステンド・グラスを網羅的に調査し,カタログ化していく「ステンド・グラス総覧委(コルプス)」による研究も,フランスでは遅々として進まない状況にある。こうした中で,シャルトルに関しては新たに修復が行われ,90年代以降,新しい研究が発表されている。このようなステンド・グラス研究の動向の中で,本研究では窓と言う特殊な空間における連続物語表現の問題を中心に,考察を進める。ステンド・グラスにおける叙述展開の問題は,他の視覚メディアとも相互に関連する基本的問題があり,さまざまな角度から考察する必要がある。近年の美術史研究の成果である社会史的視点などの方法も取り組みながら,ステンド・グラスが果たした視覚メディアとしての位置を,叙述方法という観点から掘り下げて考察しつつ,総合的に検討し直すことを目的とするものである。研究者は既に新約聖書におけるキリストの讐話を主題としたステンド・グラスに関する研究を行っており,ステンド・グラスにおいて求められた表現方法の特質に関しては,問題の所在を確認している。旧約を新たに論究の対象とすることで,既にある一定の図像形成がなされてきた主題が,ステンド・グラスにおいて視覚化されていく過程で,どのように変形され,新たな価値が付加されていったのかという問題を,さらに深く掘り下げて考察する。最終的には,聖書主題の視覚化というさらに大きなテーマに拡大して考えることを目的とするものである。-69 -
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