鹿島美術研究 年報第14号
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Gabriel Vial, Tissus de Touen-Houang『敦燈の織物』1970に示された。これをみ経錦資料がその究明のために組織的,精力的に分析された。そうしてその製作理論とメチェの仮説が提出された。その業績はポール・ペリオの公式報告VIII: Krishna Ribond/ たとき,それは衝撃的であった。1973年に渡仏して著者らに会った。そしてこの全訳を試みた。その理論と方法を完全に知るためであった。「出来るのですか」と言う講評もあったが,今,それはこの作業の土台になっている。しかし,他方多少とも漢文資料を読む者にとっては中国文献がみずからの錦をどのように述べているのか,それを問題にしないわけにいかない。その最大のことが懸案の経錦のメチェであるが,それが空引機でなければ,ではそれは何かである。しかし,これを機械工学的に記すものは古代にあっては皆無といってよい,わずかな資料から,経錦製作が絶好調であったろう漢代の文献(例えば王逸『機婦賦』)を,その文学的表現に困惑しつつ一瞥すれば,そこに連想されてくるのは,我々が知るところの空引機に特徴的な構造なのである。そして欧米の研究者が想定するところのメチェ・オ・バゲットMetier'auxBaguettes' は見えてこないのである。空引機支持がなお根強くあるのはこうした記事のゆえであろう。中国は随末唐初まで機法の変化はなかったとする私見に対しても『三国志』は「馬釣の綾機の改良」を記している。これら事実と文献の不整合を前にして文献のより厳密な考証と共にこれを論理的に説明する必要があろう。その解明にもっとも有効なのがコンピューター・グラフィックスによるシミュレーションであろうと考えている。実行はたやすくはないが将来に向けて目的はここに絞られてきていると言いたい。⑯ 日本の輸出漆器に関する調査研究—17世紀を中心に研究者:大阪市立博物館学芸員山崎研究の目的は,この17世紀の輸出漆器の編年的研究に必要な基礎データの収集にある。「調査研究の要約」の項で述べたように,西欧においては研究者間の協力が積極的に行なわれ,新しい成果が発表されつつあるのに対し,わが国において,その成果が紹介されることは極めて稀で,基礎データの蓄積という点において明らかに遅れをとっている。とくに,伝存している実物資料に関してみても,桃山時代に輸出された南蛮漆器や,-72 -剛

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