具体的なレベルでは,写真の持つ情報伝達と記録の両面から分析を行う。まず写真が運ぶ情報の問題としては,建築はそもそも土地に根付いているものであるので,真によって運搬可能となった情報の意味は,建築の本質に関わっているはずである。これを教育の問題に落とし込むことで分析の手がかりをつかむことをも翠くろんでいる。建築の写真は建築教育の中に意外に早く取り入れられており,明治期の日本の西洋建築導入状況を世界的視野でとらえるための一つの軸として展開しうるであろう。しかも本研究で比較の対象としているイタリアにおいて,近年,19世紀の写真を研究対象としていこうという動きは強まっている。とりわけ建築写真についても,1997年9月にミラノで開かれた小シンポジウムにおいて,これから写真自体の修復を行いながら研究対象としていこうという宣言がなされており,まさに時宣を得た研究といえる。もう一点,記録という作業の持つ意味の再考であるが,私はこれを建築の保存の問題と関連づけ,より広範な建築状況の中に位置づけるべきだと考えている。建築保存の発生時に記録手段としての写真が利用されたことは感覚的にも理解できるし,世界共通の現象でもある。その世界共通の性格とともに,日本での特殊なあり方を探るべきであろう。日本では建築の保存が,建築界のあり方,そして都市の状況とあまりにかけ離れて行われてきており,かつ建築の舟命に対する認識は近代以降,忘却されていった。本研究には,こうしたあり方の起源を探り当てる目的もある。⑰ 絵巻物における“異界”表現の諸相ー13■14世紀の作品を中心として一研究者:慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程伊藤真弓調査研究の目的における意義は,従来必ずしも十分に分析され尽くされていたとはい難い,いわゆる“異界”表現について,個々の作品の場面を検討することによってその全容を解明・整理することにある。いままで異界について特に焦点を当てて論じられた論考は数少なかったものの,当研究を行うことにより,今後の絵画研究において従来とは異なる新しい角度からの考察を行うことができるといえる。すなわち,従来より幅広く行われている絵巻物研究が,さらに広い視野をもって研究対象となりうるという可能性をもつものである。また,その価値は,従来ほとんど焦点を当てられていなかった問題に対して,特にテーマを絞り問題を追求しようとする点にある。さらに,本研究により得られた成果-76
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