鹿島美術研究 年報第15号
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が,一個人の研究に終始するものではなく,あらゆる“異界”表現をもつ今後の絵画研究に対して提供することができることにも,その価値を見いだせる。なお,その構想は,研究テーマの中心を,絵画における“異界”表現を,描法・形式・用いられたモチーフという観点より考察することに設定している。しかし,絵画のみを検討するにとどまらず,時代背景となる文学及び民俗についても考慮する必要性があるため,同時に研究対象として参照したい。本研究は日本の絵画において,諸外国や,地獄・竜宮等の想像上の世界であるいわゆる“異界”が,どのような描法・形式・モチーフをもって描かれたのかという点について追求検討するものである。このように当時描かれたものとしての異界を明らかにすることは,同時に,日本の画家や,絵画を享受した人々が“異界”をどのように認識していたのかという点を明らかにすることである。よって,本研究は究極的には,当時の日本文化の特質を解明し得るという展望をもつものである。⑱ 請来仏画の受容について研究者:徳川美術館副館長兼学芸部長山本泰わが国の中世以降の仏画には中国大陸や朝鮮半島の仏画の図像や様式の影靱を受けて制作されたとみなされる作品がかなり存在している。従来,鎌倉時代制作の仏画に中国画の影咽が見られる場合に,ーロに「宋風」と言われるが,具体的な作品に基づいた請来仏画の受容に関する比較考察は甚だ少ない。申請者はかねてより,伊勢湾沿岸地域の請来仏画の調査を行なって来たが,この中には中国元代仏画(奈良・円照寺)の図像を踏襲している曼荼羅寺の「観経序分義図」や高麗仏画を手本にしたと考えられる宝舟院や祐福寺の「阿弥陀三尊像」正法寺の「阿弥陀独尊像」などの本邦中世期の仏画が存在することを確認している。この研究は主題ないしは図像を同じくする彼我の仏画を対比的に比較考察することにより,それぞれの特質を明らかにすることにある。従来高麗仏画の本邦仏画への影聾についてはあまり考えられたことはなかったが,本研究によって新たな視点が得られることと思う。本研究の主たる対象は伊勢湾沿岸地域(東海地方)であるが,研究上必要な作品は広く範囲を求めることとする。-77

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