⑲ 明治・大正期工芸に関わるパトロネイジの問題について研究者:宮城県美術館学芸部研究員原田敦子明治期のいわゆる「輸出工芸」に関しては,今まで,日本近代工芸の前史として否定的な側面が語られるのみで,具体的な作品に基づいた研究報告は,必ずしも充分とは言えない状況にある。これは,作品の制作目的からも当然のことではあるが,主な作品が海外に輸出された結果,国内での作品調査が困難であったためでもあるのだが,近年では,明治期に流出した日本の美術・工芸品が海外の美術館,博物館で,積極的に公開,研究されており,研究のための環境は整ってきていると言える。この研究では,これまで,近代工芸の中でも異端児扱いされ,梢極的な評価を与えられることが少なかった「輸出工芸」を,改めて時代の位相の中で捉え直すことを一つの目的としている。これらの美術工芸品は,海外においてジャポニズムと言われた広範な日本プームを支え,多くの芸術家たちのイメージの源泉となったものであるが,同時に,新生国家としての日本が,世界に対して示そうとした自らのアイデンティティーの証でもあった。これらは,政策的,意図的に創り出されたものであったがために,時代の欲求に取り残され,やがては厳しい批判にさらされることになるのだが,この,大正期にかけて「輸出工芸」的表現が切り捨てられていく過程に,日本社会における近代的美術市場の確立,新たなパトロネイジの登場を見ることが出来ないだろうか。とかく曖昧に,消極的な意味で述べられてきた「輸出工芸」ではあるが,経済的背景という視点を設定することによって,次代との関連において,客観的に見直すことも可能となるものと思われる。また,そのことによってこそ,大正期に華々しく展開した創作工芸の動きと特質が,より際立って把握されることと思われる。⑲ 江戸時代後期における京都画壇の基礎的研究研究者:大津市歴史博物館学芸員横谷賢一郎くその意義〉この度の江戸時代後期京都画壇の研究に関しては,未だ調査・研究の成果が少ない。本研究では実地の調査・資料収集に基いて確認された情報の整理・検討が行われる。-78
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