木村重信・選考委員の選考理由説明:ることを新知見として提示する一方,幾つかの先行版画とプッサン作品との違いを明確にすることによって,プッサンの図像生成の独創性を浮き彫りした。ここでは,その緻密な分析と考察の詳細を述べることはできないが,これまで誰も指摘しなかった重要な視覚的なソースが挙げられ,そのことによってプッサンが主題の潜在的意味を観念の次元においてではなく,可視的に一挙に提示するための構図の調整に努めたことが明らかとなった。このように,単に図像ソースの列挙ではなく,構図とその生成過程を問うことによって,形態論と意味論とを切り離すことなく考察しうる可能性を示唆している。当財団賞にふさわしい,すぐれた研究であると考える。岩崎均史氏の「国立歴史民族博物館蔵洛中洛外図屏風の考察〜先行版本挿絵との関係〜」は,「歴博E本」と称される洛中洛外図屏風についての研究報告である。明暦4年(1658)に刊行された「京童」という6巻6冊の京都案内記がある。これは仮名草子作者である中川喜雲が京童の案内によって,洛中洛外を巡り,自作の俳句や狂歌・狂句を添え,各所の故事来歴を記すという形をとっている。この「京窟」には87ヵ所の名所社寺の挿絵が描かれているが,岩崎氏はこれらの歴博E本とをくわしく比較検討する。その結果,①双方に同じ場所で,ほぼ同じ構図のものが65ヵ所あり,これは「京童」全挿絵の75%にあたり,②一部利用した構図が4ヵ所あること。③さらに異なる場所に人物のみ利用しているものが13ヵ所あることが判明した。さらに岩崎氏は歴博E本の幾つかの問題点について「京童」との関係を検証する。例えば①他の洛中洛外図にはとんど見られない「吹抜屋台」的描写が,「京童」の挿絵と同じ構図のものにおいてのみ見られること。②他の洛中洛外図に必ず見られる祇園祭の山車の描写がないのも,「京童」にそれがないことによること。③醍醐の描かれている位置が「京童」栗田秀法氏の「ニコラ・プッサンの視覚的源泉に関する基礎的研究いて。栗田氏はこれまで一連の研究において,プッサン絵画の主題,構成,図像の問題を「イコノゲネシス」(図像生成)論的な視点から考察してきた。本研究においては「足萎えの男をいやす聖ペテロと聖ヨハネ」のための図像ソースのひとつに,フィリップ・ハレによるエングレービング版画の可能性があ1640年代を中心に一」につ13 -
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