鹿島美術研究 年報第15号
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④ 国立歴史民俗博物館蔵洛中洛外図屏風の考察〜先行版本挿絵との関係〜発表者:たばこと塩の博物館主任学芸員岩崎均史六曲一双の屏風で,筆致・画風については,狩野派の影聾を示す部分もあるが,概ね形式からの変容を示し,絵師に関しては,絵画的特色も見られないことから特定できない状況である。景観構成の考察の結果は,一部例外を除き四条辺りを境に南側を右隻,北側を左隻と分け,右隻右端上部を南東部の宇治に置き,左端を円山に,下部は右端は南西部の山崎にし左端に燈明寺を描いている。両隻は基本的には連続しており,視座は,洛中洛外の差なく西側に置き,南西方向から南〜東〜北〜北西と360度に近い視界の広がりを描いている。『京童』について刊年は,明暦四年(「明暦四戊戌年七月吉日」の刊記による)で六巻六冊の版本。者は俳人であり,仮名草子作者である中川喜雲である。内容は,著者喜雲が京童の案内により洛中洛外を巡り,自作の俳句や狂歌・狂句を添え各所の故事来歴を記すという「案内記」としてまとめられている。この後盛んに著される地誌・名所記のII篇矢としてばかりではなく,代表的な京都の地誌としても知られる。『京童』上に取上げられた名所杜寺は,目録上八十七箇所,付(つけたり)として記された十二箇所を加えると実に九十九箇所を数える。挿絵は目録数と合致し,八十七図拙かれている。双方のつき合わせによる検討の結果を表にまとめた(別添資料)。この表は,『京章』の目録順により,「挿絵の題」「歴博E本の短冊」「屏風の描写位置」「『京童』と歴博E歴博E本と『京童』の比較検討概要本報告は,国立歴史民俗博物館所蔵の洛中洛外図屏風の内「E本」と呼称される作品に注目し,その粉本と思われる版本挿絵との比較を行い,相互の関係と,本屏風の持つ資料的意義を検証したものである。国立歴史民俗博物館所蔵「洛中洛外図屏風E本」の歴博E本(以下屏風)の形状は,紙本金地着色の-20

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