鹿島美術研究 年報第15号
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⑩ 狩野芳崖筆写生帖類に関する総合的研究研究者:東京国立博物館学芸部美術課研究貝古田本調査研究の構想は,日本絵画史における視覚の変化の考察を行ない,おもに19世紀的な視覚というべきものを特徴づけていくことに主眼をおいている。伝統的な「まなざし」は,風景画においては多視点,俯職的描写などを特徴としているが,19世紀に入って,主に西洋の遠近法や,写真技術が受容されていくなかで,単一固定の視点,見えたとおりの描写に変化していく,ということが想定される。このような理論的な枠組みのなかで,19世紀に活躍した画家たちの第一次資料であるスケッチ類を精査し,その様式的特徴の抽出を試みることが申請者の最終的な目的となっている。芳崖のような江戸の狩野派の伝統にある画家に関して,スケッチの様式的考察を行なうことで,粉本主義と実物写生との相関関係およびそこから生まれた近代的な視覚について具体的な提言が行なえれば,美術史学上の意義は大きい。また,画家の等身大の資料を分析することによって,芳崖の制作状況,例えば絶筆となった「悲母観音」(重要文化財)の制作にかかわる状況を明らかにするなど,狩野芳崖研究に寄与するところも少なくないと予想される。⑪ 印象派展とサロン:その社会的背景および日本への影響研究者:武蔵大学非常勤講師吉川節子印象派展は1874年の第一回展から,1876,77, 79, 80, 81, 82, 86年と都合8回開かれました。第一回展にはモネをはじめルノワール,ピサロ,シスレー,モリゾ,セザンヌらが参加しています。印象派展はフランス政府主催の官展:サロンに反旗を翻したグループ展として,近代美術史上,栄誉ある位置を保持し続けてきましたが,第一回展をさらに詳しく調査してみると,実は参加者は30人のうち12人の作家がこの年のサロンにもかけもち出品していたことが明らかになりました。(拙稿“TheFirst 意味しています。VSサロンという従来の単純な二項対立の図式では近代絵画の歴史がたどれないことをImpressionist Exhibition and the Salon,"『地中海学研究』1995)これは印象派展亮46

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