様式が華麗に開花するが,一方で,精神面でも芸術面でも,そこに収敏され得ない多様な動きが活発になっていく。集団での信仰から個人の思索へという傾向と,公的芸術保護から個人的芸術愛好へという動向は,諸ジャンル(風景画,風俗画,静物画など)の勃興と切っても切り離せないのではないかと思われる。また,17世紀芸術の研究者たちに時折取り上げられる「ヴァニタス」や「アルカディア」といった問題も,内部にはやはり過渡期的な変容を含んでいるのではないかと思っている。今回はそちらにまで踏み込む余裕はないが,関心を払い続けたい。このように,ストイシズム題の研究は,大きな視点から見ると,「17世紀=過渡期」という構想の中の一部分になると考えている。⑬ 中国洋風版画の成立と展開研究者:町田市立国際版画美術館学芸係長河野[意義]中国洋風版画の研究を進める事によって,単に技術的水準と云う事ではなく,西洋の合理的精神に培われた遠近法が,中国版画の中にどのようにして理解されもちいられ,中国洋風版画が成立したかを理解する事によって,今まで曖昧模糊とした中国洋風版画の内容と質を把握でき,そこで初めて我国の近世絵画との影籾関係が具体的実例を以ってして,その一端が解明できて行くものと考えられる。更に西洋絵画に見られる奥行(遠近法表現)と,東洋画にみられる奥行の表現的差異を考え東洋絵画が持つ精神性の部分についても考察できる可能性がある。[価値]中国洋風版画の研究が持つ価値は,東洋における木版画の世界から,新たな版種(銅版画)の登場で,東洋版画の技法表現が拡大された事。と同時に,西洋画が東洋画にどのような影響を与えたかを考える上で,版画は線表現であることから,東洋人による西洋画(版画)の理解度もしくは,西洋画に関する考え方が,曖昧な面的表現とは異なり,精神性の強い線描表現である事から,的確に描き手の思考が表れ,それが近代へと移行する。東洋人の近代化への思考の理解の一端を知る事ができる。[構想]本来,中国の洋風表現について考察する場合は肉筆,民衆画(年画,芝居絵,眼鏡絵等々)等の論究する中から版画の存在意義等について考察した上で,洋風版画について考察して行かなければならない所ではあるが,今回は版画に限定して,版画の持つ特性を生かした考察をおこないたい。版画の特性とは,間接表現である事,48 -実
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