2.本調査,研究の意義すでに東京の主要産業でなくなっていることも原因して,一部の陶芸家を除いて詳細な調査研究がなされておらず,近代の東京の陶磁器産業はその実態をつかめないのが現状である。この調査研究によって,そのかなりの部分が明らかになることが予想される。また,有田や瀬戸,京都,横浜などの陶磁器生産地では,地道な調査が続けられた結果,現在では多くの情報が蓄積され,急速に研究が進みつつある。にもかかわらず,陶磁器産業をめぐる制度や教育,造形理論の中心であった東京のことが判明しないために,彼らの研究が完成しないという指摘がなされている。この調査研究は各生産地からも期待されており,東京のみならず,全国の陶磁史を充実させることにも寄与するであろう。さらに,政府の美術工芸に対する政策を明らかにする上でも,少なからず成果が期待できる。今回は国内に点在する資料を丹念に収集して実態の把握に精力を注ぎ,将来的には既に作品の所在が確認されている欧米の美術館,博物館の調査を行って,研究を補完したいと考えている。⑯ サン・スヴェールのベアトゥス写本挿絵における動物モチーフについて一ーカロリング朝,ォットー朝の星座図における動物の表現との関連__研究者:大阪大学大学院文学研究科博士後期過程柴田いずみ1.研究全体の構想ーサン・スヴェール写本における古代に起源を有すると推定される図像表現一申請者は,これまで,サン・スヴェールのベアトゥス写本に認められるさまざまな図像表現について調査,研究を進めてきた。本写本挿絵には,古代に起源を有し,カロリング朝,オットー朝を経て継承されてきたと推定されるさまざまな図像表現が認められることを確認した。このような図像表現は,サン・スヴェール写本が制作されるにあたって増補された一連の挿絵群にとくに顕著に認められる要素である。本写本挿絵の動物モチーフの表現の源泉を,前述した古代起源の星座図の表現にもとめようとする今回の調査研究の課題も,以上のような研究の一環をなすものである。-50 -
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