鹿島美術研究 年報第15号
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⑪ 明初「洪武様式」における青花・釉裏紅磁器の研究研究者:静嘉堂文庫美術館学芸員長谷川祥子その成果を用い,これまで知られていなかった生産地の状況を包括した「洪武様式」の総合的な研究を行なうことを目的としている。この研究を進めることによって,現在まで,文献資料から明時代の洪武二年,二六年,三五年のいずれか,もしくは宣徳初年に設営された,と諸説に分かれている「官窯」設置年代のうち,具体的にどの年が妥当であるかという,陶磁史上,重要な問題についても迫ることが出来ると思われる。現地でその発掘作業の中心にあった劉新園氏は,その報告論文の中で「洪武二年説」をとっているが,申請者も同意見をもつものである。というのは,「官窯」が洪武年間のごく初期に設営されていたからこそ,洪武様式の青花・釉裏紅磁器のほぼすべてにおいて,明・洪武の政府の統制,意向が強く反映したと見なすことが出来るからである。さらに,それ以前の「元(至正)様式」とは,あえて異なる特徴を備えて出現した「洪武様式」の作品を観察することにより,明初の政治的・文化的側面をもうかがい知ることが出来ると思われる。加えて,洪武年間における景徳鎮の窯業体制が,続く永楽・宣徳年間にどのように継承,あるいは変遷していったかについても,新たな発掘調査資料をもって詳しく調査したい。以上より,① 景徳鎮窯における官窯設置時期の解明をする。② 洪武様式の青花・釉裏紅磁器が,どのような理由,政治的・文化的背景によって,その前の元(至正)様式から作風を変えて出現し,また洪武様式の後,永楽・宣徳様式へと変遷していったかを探る。ことに主眼を置き,研究を進めたいと考えている。⑫ 米国所在天神縁起絵巻の研究研究者:東京芸術大学大学院博士号取得須賀実穂本研究は,米国所在の天神縁起絵巻七点の実見調査及び諸本全般との比較研究を目1994年に,景徳鎮における洪武の層位を含む発掘調査が行われたが,本研究では,55

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