鹿島美術研究 年報第15号
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が洋書にあることが,判明している箇所である。ごの事実を中心に洋書の構図的,技術的影響を曙山の芸術の中に見い出し,比較研究をする。また曙山の画論と実際の絵画表現を手本となった洋書にもとづいて探究する。2)小田野直武は秋田蘭画独特の新構図を構成した。A)空にリアルに描かれた雲,B)中景に地平線の導入,C)水面に投射された水影,D)一光源に夜陰影法,E)遠近法等である。これらが元となった洋書の銅版挿絵と絵画構図との関係を探究する。特にプルーシュの「自然の景観からの影響を精査し,その関係を明確にする。また司馬江漢,歌川豊春等との関係も検討する。3)直武の使用した解剖学書,銅版挿絵の分析,また「解体新書」の挿絵は洋書をトレースしたという申請者自身の仮説に基づき,直武の技術的な処理,またその応用の様子を分析する。銅版技法と日本画技法の混合処置,直武独特の陰影法の成立についても検討する。4)当時盛んであった自然博物学を中心に輸入された多くの洋書を調査分類して,他の蘭癖大名の画集と洋書との関係を分析する。当時の大名達にみられる傾向は,自然科学研究と言う目的より,趣味的な制作目的であった。そのため,そこでは色彩豊富な絵画的価値の高い物の制作を目ざした。当然,単なる挿絵だけではなく,ワイマンの画集「本草書全集」の様な自然博物学の内容を持った洋書が手本となったのであろう。すると,西洋での洋書の目的と日本人の使用趣旨が異なってくる。此のような点に焦点を当てた研究は,まだなされていない。この意味では当時輸入された洋書と,画集絵画を検討することは,無意義な事ではない。研究方法として,これらの洋書を所有する機関を調査することから始め,長崎の県立博物館,市立美術館,松浦資料博物館を中心に資料収集を行う。又東京大学総合図書館,東洋文化研究所,史料編纂所,東京国立文化財研究所,国立国会図書館など,東京の研究機関において史料を収集する。また秋田県立近代博物館,秋田千秋美術館,角館図書館等を尋ね,関係史料を収集する。⑲ 時宗における祖師肖像画の研究研究者:彦根城博物館一遍・真教をはじめとする歴代遊行上人を中心とする肖像は,祖師信仰を第一義と木文恵61 -

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