する時宗で特に重視され,礼拝の対象となり続けた。そのため,歴代の御影が全国各地の時宗寺院に伝えられている。その時宗にとって本尊にも相当する肖像画を体系的に整理・考察することは,時宗信仰における祖師肖像の意義・役割を明らかにすることを可能にし,その意味から時の思想を究明するための必須の課題であるといえよう。また,時宗には,指導者(知識)を熱烈に信仰し,命までも捧げるという「知識帰命」の思想がある。これまでの研究では,祖師肖像画や絵伝が制作されたという行為そのものを「知識帰命」という思想と結びつけるにとどまり,具体的に「知識帰命」をどのように絵画化したか,という両者の関連までは考えられていない(現時点における申請者は,祖師を熱烈に崇拝するといっても,決して阿弥陀と祖師とを同一視することはなかったと考えている)。この点を明らかにすることによって,時宗の美術の特色が明確になるであろう。「時宗の絵画は,肖像画をのぞいて他の浄土系諸宗のものと比べ,とりわけめだった特徴があるというわけではない」とする意見もあるが,上述の時宗肖像画の体系的な研究によって,肖像画以外においても,他の宗派の絵画の特色とは異なった,時宗絵画の特色が見出せる可能性が高い。⑳ 近世風俗画に描かれた陶磁器とその用途について研究者:九州陶磁文化館学芸員永渕友子本研究は,近世陶磁器の用途の問題を解明することを目的としている。現状の陶磁器研究において,用途の問題は研究が進んでいるとは言い難い。例えば,ある陶磁器作品を,実際にどのような料理をどのような場所でどのように給仕するために用いたかなどの点についてを解明する試みはほとんど行われておらず,碗や皿などの基本的な食器類の使用方法についても,漠然とした言い方がなされていることが多い。一方,民俗学的手法による研究では,陶磁器の年代についての考察はほとんどなされておらず,作品の年代と用途とを正確に結び付けることを試みる研究は行われていない。作品の年代と用途を考えていくことで,生活様式の変化の傾向も明らかになる可能性もある。このような調査研究を構想した理由に,古い陶磁器の名称の問題があった。共箱に-62 -
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