頭の初唐様式よりも旧式で地方色をもっていること。本研究は広隆寺の創立と宝冠弥勒,宝鬱弥勒を中心に検討しているが,京都地方の豪族の仏教に対する動きや彼らによって作られた寺院や仏像の性格も一部は解明できると思う。⑭ 岸派絵画資料の調査研究者:富山美術館岸駒は,江戸時代後期の京都画壇において,声望一世を風靡した画人であるが,今日では,在世時の高名さと対照的に,その作品に対する評価は必ずしも高いものではない。一説には,傲慢な性格や長命を保った晩年にいたるまでの濫作,あるいは潤筆料の高さが,彼の絵の評価を没後急速に下落させる要因となったともいわれるが,逸話の域を出るものではなく,昨今の近世絵画史研究のなかでも岸駒と岸派の画人達は比較的関心を向けられることの少なかった一派といえよう。申請者の所属する富山美術館では,1987年の特別展として「岸駒展」を開催し,その際に製作した図録に,若干の史料とともに,岸派の本家筋に伝来した絵画資料の一部を紹介した。この時は量の多さもあって,その全貌を把握するには至らずにいたが,幸いにも,本年,所蔵者より当館に一括寄贈されることとなった。この絵画資料は,先述のように需要者に引き渡される前に手控えとして模写された「写し」と草稿あるいはスケッチのようなものに大別されるが,岸派研究の貴重な資料といえる。今回の調査研究は,この絵画資料を整理・調査するものであり,逸話が先行している観のある岸駒と岸派について,直接的・基礎的資料を整備して,岸派研究の手掛かりとすることが目的である。諸家に分蔵されている同様の資料も具体的に判明してきたので,これも合せて調査し岸派に伝持されてきた資料の全容を把握したいと考えている。また「写し」の方には制作年月日が明記されるとともに,絵の注文主や制作依頼の紹介者なども併記されており,絵画そのものと共に,絵画制作の環境をも類推することができ,その意味でも,岸派を研究する上で重要な資料といえる。小久保啓一66 -
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