人物,背景のトレド風景等)の存在,作品そのものの未完成状態などからしてくラオコーン>の主題解釈に決定的な結論を導くことは困難な作業である。しかしカトリック信仰擁護の中心地であったトレドの,とりわけエル・グレコの身近な場で展開されていたことが想像される複雑かつ微妙な文化的・宗教的葛藤を丹念に調べていくことで,エル・グレコ芸術の中で特異かつ重要な位置を占めるこの作品の理解に少なからぬ光をあてることが出来るものと考えている。⑱ 敦燻莫高窟初唐壁画の研究研究者:成城大学大学院文学研究科博士課程後期山崎淑中国敦燈莫高窟には6世紀頃から約1千年にわたる膨大な量の壁画が残されている。特に,唐前期(618年から781年)には水準の高い活発な制作活動が行われたが,他の地域にはこれだけまとまった同時代資料が残っていないことから,これらは唐代の中国絵画の様相を知る上で不可欠な史料となっている。このことから,莫高窟唐前期壁画の研究は大きな意義をもつものといえる。これまで,莫高窟唐前期壁画については,現地の研究機関による基礎的な編年研究の他,壁画の題材を比定する主題論や,同じ題材を扱った壁画同士を比較し,その形式上の変化を論ずる研究などが行われてきた。現在は,これらの研究成果を踏まえたうえで,唐前期壁画の造型的特質や様式などの総合的な問題について議論すべき段階にきている。莫高窟の唐前期壁画は現地の研究機関などによる編年によって初唐期と盛唐期の二期に区分された。盛唐期は,壁画の筆致から看取される技法からみると,長期にわたる莫高窟の制作期間のなかでも成熟期と位置づけることができる。一方,盛唐期の一歩手前である初唐期には,盛唐期に比べ技法的に未熟な点があり,その意味で模索の段階にあると言える。この初唐期窟群には,「異なる複数の様式」が混在していることを,私は実地調査のすえ見い出した。この「異なる複数の様式」が混在する原因と様相を明らかにし,これらがどのように盛唐期につながっていくのかを考えることにより,編年研究からより踏み込んだ様式研究へと進むことが期待される。ここに,この研究の意義がある。-69 -
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