鹿島美術研究 年報第15号
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林彰⑲ 誰ヶ袖図屏風定型の成立と展開研究者:早稲田大学大学院文学研究科博士課程杉原篤子誰ケ袖図屏風の図様は単純だけれども,その内容が提起する問題は非常に多様である。その研究は,絵画史的位置付け,染織史的内容,かざり(風俗史的伝統)の3つの視点から追求されるべきと考えられる。この画題作品の位置付けについては,近世風俗画史と染織史の立場との見解の不統ーが見られており,その為両分野における位置付けも曖昧なままである。近年,風俗画を画中資料として扱う染織史の立場や,染織史的知識を援用する風俗画の研究は増えている。誰ケ袖図の位置付けを明確にすることは,それぞれの分野における関連作品との関わりを明確にし,尚かつ,相互の研究成果を共有の物とする為の重要な座標軸として,大きく貢献することが期待される。研究方法としては,まず画中の小袖の風俗史染織史的考証により,具体的な制作時期の特定を行い,染織史的に位置付けすることが最も有効な方法と思われ,優先される。だが,風俗画史の立場からはそれだけで説明できない事柄も存在し,又画中資料と現実とのギャップも考慮しなければならない為,染織史の立場だけを肯定できない。具体的には,「琴棋書画」「文使い」という風俗画の常套的モチーフが読み取れることを見過すわけにはいかず,誰ケ袖図の主題とこれらの主題が融合される経緯と理由にも思考を及ぼす必要がある。従って,同様の課題を内包する,同時代の作品として,寛永美人画群や諸種遊楽図,とりわけ「彦根屏風」,「松浦屏風」等と関連付けて考察することは不可欠である。特に,誰ケ袖美人図の検討において,前記2作品や「伝本多平八郎姿絵」等との関連の考察は,重要である。本研究の発展的課題として,これらの風俗画画題の研究も視野に入れている。又,舞妓図や遊女図等の寛永美人画の本格的研究は,小林忠氏の『江戸の美人画』の著作以後,現時点まで殆んど進展していない状態と言え,併せて調査研究を試みたい。⑩ 細川家をめぐる近世画壇の研究研究者:永青文庫学芸員本研究の目的は,外様大名,肥後細川家と狩野派を主とした諸流派との関係を解明-70-

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