スティ,ハリスを据えている。第一部に関してはすでにこれまで取り組んで来ており(「研究の実施状況」参照),当助成金希望期間中の研究にあたる第二部・第三部では,パロミーノ以後,ベラスケスの〈巨匠〉としてのイメージが汎ヨーロッパ的なものとして確立し,同時に,美術史学が学問として成立する時期でもある19世紀から20世紀にかけての重要な時代についてを扱う。当研究においても,第二部から第三部への部分は,研究の最終的な結論部にも直結する要の部分と目される。研究目的としては,第一部でパロミーノについて行ったように,ユスティ,ハリスの研究者たちがベラスケスと古代彫刻の関係性を強調したその背景と個人的理由を洗い出すこと,美術批評・美術史学の領域と美術制作の領域が分化した周辺の事情の調査,19世紀末の美術史学の成立に際して,かかる学問領域が「古代彫刻の図像的知識」を有する立場を貴族社会や美術アカデミーから継承したことについての実証などを設定している。⑭ ジョルジョ・デ・キリコと「メタフィジカ絵画」に関する研究研究者:大阪府立大学大学院博士後期課程市川直ジョルジョ・デ・キリコ(1888-1978)は,今世紀の初頭に「メタフィジカ絵画」なるものを生み出し,後続の美術家たちに多大な影響を残した。申請者はこれまでの5年間,デ・キリコの絵画作品を中心に研究してきたなかで,彼の創作活動が未来派やダダ,シュルレアリスムなどの他の芸術運動としばしば混同されていることに気づかされた。それは,デ・キリコ自身が「メタフィジカ絵画」の意味を明確に示さなかったことに起因すると考えられる。したがって,その意味を明らかにするには,彼の手になる絵画作品や文章を分析し,それらに影響をおよぽした諸絵画ならびに思想的背景をさぐる必要がある。以上のことをふまえた本研究は,この「メタフィジカ絵画」の定義づけと,美術史におけるその位置の明確化を目的とする。おもに,この画家が「メタフィジカ」という言葉をひんぱんに使うようになる1919年以前に制作された初期作品,ならびに1908年から1921年ごろまでに書いた手紙,手記,芸術雑誌の投稿記事などの文章を分析し,アーノルド・ベックリン,マックス・クリンガーなどの絵画やエドワード・ゴードン・クレイグ,アドルフ・アッピアなどの舞台芸術,さらには,ニーチェやショーペンハ-78-
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