鹿島美術研究 年報第16号
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⑮ ルネサンス美術におけるプリニウス『博物誌』受容の研究研究者:電気通信大学電気通信学部助教授秋山ルネサンス美術研究者の多くは従来プリニウスの『博物誌』を扱う場合,容易にアクセス出来る現行テクストを用いがちである。しかし現行テクストは15,16世紀に流通していたテクストに比して,真正に過ぎるきらいがある。ルネサンス期のテクストは古典文献学的な正確さを欠き,往々にして誤字脱字,欠落等が多かった。それ故ルネサンス期の美術理論にはもとより美術制作にも深甚な影響を与えていた『博物誌』の受容の諸相を精密に解明するには,当時のテクストに立ち返る必要が不可欠とる。しかるに現状ではこれらのテクストに接するのは容易ではない。本研究は後代の版本の基となったプリニウス初期版本数種のテクストの異同をまとめることにより,この研究上の空白を埋めることを目指すものである。本研究が遂行されることにより,ルネサンス研究者にとってルネサンス期のプリニウス・テクストヘのアクセスが簡便なものとなろう。また本研究は15,16世紀の美術理論書における古代美術関連の記述とプリニウス初期版本テクストを比較照合することにより,テクストの伝搬経路や誤記,誤解の継承経路を明らかにすることをも目的としている。これにより個々の例により具体的にどのプリニウス・テクストが受容されたのか(場合によっては孫引きされたのか)が解明できよう。また印刷術の発達ば情報の広範な普及を促進する一方で,一端定着した誤っだ情報の修正を難しくするという事態をまま生じせしめるが,このメデイア文化史上重要な現象が,具体的事例を伴って指摘しうると期待される。研究者:名古屋大学文学部助手中川原育子キジル,クムトラ,シムシムなどの石窟寺院で知られる中国新橿クチャ地域においては,石窟内部を仏教説話図をもって飾ることを特に好んだ。ところが,本生図と仏伝図の一部(成道以前と涅槃関係)を除いて,多くの仏伝説話図や因縁説話図は未比定のままにおかれている。しかし,特徴的な図様を持つものや,近年の調査によって明らかにされた銘文研究をもとにするならば,ある程度主題の解明は可能であり,こ◎ 中国新腫クチャ地域の説話美術に関する研究-80 _ 聰

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