の地域の仏教説話研究を取り巻く状況は従来とは大きく異なってきている。本研究は,クチャ地域で流行していたとみられる説一切有部系の経典群を詳しく検討し,未比定の仏伝説話図や因縁説話図の主題の解明を第一の目的とする。それには,経典の探索とフランス人銘文研究者との共同作業による壁画に残された銘文の解明が大きな鍵となろう。特徴的な主題の説話図を取り挙げて,銘文と経典との関係,及び銘文と実際の図像内容との相互関連を考察し,これによってこの地域の説話美術の解明を大きく前進させることができよう。さらに,明確に主題が特定されている説話図を重点的に取り挙げ,インド・ガンダーラや中国の作例との比較考察によって図像細部の特徴を明確化し,図像の系統や表現上の特色を明らかにしていく。例えば「降魔成道」,「火龍調伏」,「三道宝階降下(優填王の造仏・蓮華色比丘尼の礼拝)」,「ラトナシキン(宝誓仏)への灯明の布施」などを取り挙げる。このような方法によって考察を深め,研究を積み重ねていくことで,この地域の説話研究に対し,新たな段階を切り開くことができると考える。-81 -
元のページ ../index.html#107