辻惟雄・選考委員の選考理由説明:行いまして,その結果,次の通り授賞者と授賞者に次ぐ優秀者を内定し,このことは3月16日の鹿島美術財団理事会において承認されました。授賞者は日本・東洋美術部門から愛知教育大学助教授賜巣純氏,研究主題は「中世後期における六道絵と十王図に関する図像学的研究」。そして,西洋美術部門からお茶の水女子大学文教育学部助教授天野知香氏,研究主題は「1910年代末〜1920年代前半のフランスにおける批評の文脈とマチスの芸術」であります。鷹巣氏の受賞理由を次に読み上げます。鷹巣氏はかねてから,鎌倉時代以降近世初頭にいたる六道絵十王図を中心に現世と他界との関係がどのように把握され,表現されたかを問題とし,その変遷と連続の相を明らかにしようと試みてきた。今回の研究報告では,まず,茨木市の水尾本の六道十王図,(鷹巣氏は十王関係図像と六道関係図像とを結びつけた作例を六道十王図と呼んでいる)を採り上げ,その制作を表現様式などから鎌倉時代末様と推定し,図像構成を六道十王図の展開の歴史の上に位置づけた。悪道を経た後に救済にいたるという六道十王図の構造は中世に萌芽し近世初期に完成したことを説き,その完成した構造を導く可能性を水尾本に見出している。ついで,関連テクストに現れた内容構成の分析に拠り,その立論を補完した。六道十王図の歴史的展開は,地獄菩薩発心因縁十王業を前提としながら,新たな他界観を形成しようとしていた中世から近世にいたる道教の注釈書の方向性と密接な関係をもっていたということを論じている。美術史学的な考察に基づきながら,それのみにとどまらず,日本における生と死に関わる観念の形成に迫ろうとして構想は意欲的かつ斬新であり,図像とテクストとの相互関係の上にも興味深い問題を提起している。注目すべき業績と認められる。以上,水野敬三郎委員による選考理由です。村重信,高階秀爾,辻惟雄,水野敬三郎,大高保二郎,合わせて5名の選考委員によって行われました。選考は平成8(1996)年に助成金を受け,その報告書が昨年11月刊行の「鹿島美術研究」(年報14号別冊)に掲載されました42名を対象に行われました。まず,42名の1人1人について選考委員の真剣な意見交換が行われました。2次,3次の絞り込みを第5回鹿島美術財団賞の選考は昨年12月19日に木15 -
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