鹿島美術研究 年報第16号
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これは,単に一前衛運動の一側面を浮き彫りにするということにとどまらず,日本画・洋画という枠組みの解体から現代美術成立への過程の解明にも大いに寄与できるものと思われる。また,同時代性や国際的視野を意識しつつ,かつ,伝統と革新のはざまでいかに独自の造形世界を獲得していくのかという美術史的に大変興味深い問題を考察するうえで重要な論点につながっていく研究といえる。さらに,本研究のあとに他の日本画・洋画の動きについて調査研究を拡げることのできる可能性をも豊富に含んでいる。④ アナモルフォーズに隠された2つの指向性研究者:ボローニャ大学自由研究員池上英洋前述したように,本研究を含むより大きな研究構想は次の四段階に分かれ,まず申請者によってあらたに発見された遠近法のある特質(第一段階「イリュージョニズム」:研究ずみ)を手がかりに,そこからバロックの同様式とみなされるアナモルフォーズの二つの様式にある違いを探り(第二段階「アナモルフォーズ」:今回申請分),またこれを舞台美術様式の様式と比較し(第三段階「聖俗演劇」:次回継続申請希望分),最後にこれらの特質を宗教的動機の側面から考察する(第四段階「イエズス会と反宗教改革」:申請の予定なし)ことによって行われる。通常こうした新知見は,海外からの視点ならではの自明の理の採り上げという過ちである可能性が少なくないが,本研究に関しては,すでに世に問うた第一段階の考察結果に対する,対象国イタリア本国の美術史界における反応を見ても,その意義が大いにあるだろうことは証明されているとしてよい。(今春刊行された申請者の手による研究書『SviluppoSommerso』(イタリアCLUEB社刊,本申請書に同封)に対する「Por-tici」誌'98No. 6や「Gazzettadell'Appennino」紙'986月号における書評記事など。これらも参考資料として本申請書にコピーを同封)。本研究は,イタリアのバロック美術における問題点に,新たな方向から再度光をあてて,その解決を図ろうとするものであり,大いに意義のあるものと信ずる。-38 -

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