釈迦や会衆などの図像にも様々なヴァリエーションがあり,なかには第二形式の作品と図像を共有しているものさえあることに気づく。つまり従来の二つの形式による分類も必ずしも絶対的なものとは言えず,いったんその枠組みを外したうえで詳細かつ網羅的に図像を比較分析し,これまで唐画にもとづく古い形式として一くくりにされがちだった鎌倉前期以前の涅槃図について改めて系統分類を行うことが本研究における大きな目論見のひとつである。さて,これまで明恵と涅槃図の関係に言及する場合,『四座講式』による涅槃会の刷新とそれに伴う宋元画にもとづいた新形式の涅槃図の流布という側面ばかりが強調されてきたように思われる。しかるに本研究においては南都における涅槃や舎利に対する信仰・造像活動との関係も広く視野に収めることで,明恵が涅槃会の普及に大きな役割を果たした鎌倉初頭という時代の移行期に,高山寺本や浄教寺本を含め守旧性と革新性を併せ持つ多様な涅槃の図像が存在することを理解するための一助になると考える。⑨ モーリス・ルイスの抽象絵画における反視覚的特性の分析研究者:東京大学大学院・ニューヨーク大学大学院博士後期課程モーリス・ルイスの絵画作品に反視覚的特性を見出す本調査研究は二つの意義と価値を持つ。第一に,ルイスの作品をモダニズムの美術の典型例としてきた従来の解釈に修正を加えることによって,ルイスの作品を美術史の中に新たに位置づけ直すことが可能になる。ルイスの絵画は,モダニズムの美術に属しながらも,その後の美術の運動の下地を準備していることを明らかにすることによって,アメリカ現代美術史をより包括的な観点から捉えることができるようになる。第二に,アメリカ現代美術の研究を推進する意義がある。従来,日本における芸術研究では,フランス近代美術が多く研究されてきた。アメリカ現代美術は,フランス近代美術と現代の美術の実践をつなぐ重要な位置を占めるにもかかわらず,相対的に研究が遅れていた。とりわけ,アメリカ現代美術の中心的存在であるモダニズムの美-42 -加治屋健司
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