術は,今後に研究が期待される分野だった。だが,モダニズムの美術を分析することは,多様化する現代の美術を考察する上で必要不可欠である。フランスの美術家が残した問題に,アメリカの美術家はどう対処したのか,そしてそれは,現代の美術の実践にどのように関わってゆくのか。アメリカ現代美術の研究は,フランス近代美術以後の美術を,一貫した歴史の中で捉える視座を提供する点で,フランス近代美術の研究や,現代の美術の考察に対して多大な貢献をすると考えられる。⑩ 九州の肖像美術をよむ研究者:福岡市美術館主任学芸主事渡邊雄—肖像美術が意味するものは像主の容貌だけではない。例えば対馬・宗家の宗盛国夫妻像(東京・養玉院蔵)は男女二人を一つの画面に描いた珍しい像だが,これはこの夫妻の結婚が宗家内部の融和を示す意味があるほか,宗家が深い交渉をもった朝鮮で描かれた肖像画の様式を活用したのではないかという推測が可能である。また,背後に屏風を置いて,男の後には刀を女の後には袈裟を掛けるのも図像的な意味を考えさせられる。このように肖像美術を読む,すなわち,解釈を施すことは,その作品に多くの意味,意義を与える。今回の研究は,こうした作業を九州の肖像美術について行おうとするものである。それは無論,研究者の地理的な便宜にもよるが,未調査,すなわち新出の作品の発見の可能性が高いためでもある。また,これまで見出された肖像美術で「よむ」作業を行った作品が数少ないと思われるためでもある。これら九州の肖像美術を詳しく調べ,「よむ」作業を進めていくことにより,地方の美術史を構築する手だてになるのではないかという期待もある。その中には「中央_地方」,「(職業的な)巧_(素人的な)拙」といったような美意識の相違が見出されるであろうが,逆に京(中央)を中心とした美術史にはあらわれない日本美術史全体の重要な側面が浮かび上がり,それを提示することができるのではないかと考える。-43 -
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