鹿島美術研究 年報第16号
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中国の北方は騎馬民族の金と西夏が支配し,南方は南宋が支配した。馬遠,夏珪等の南宋の画家たちは北方系画風と違う新しい山水画を創作した。北方には,現存する美術品は少なかったので,中国絵画史上に取り上げられることは少なかった。楡林窟の山水画は北方絵画の非常に重要な作品である。更にその時代の西夏と宋,遼,金との美術上の影響関係について,新しい視見を開くものであろう。⑰ 近代陶磁史の基礎研究—博覧会関連資料を中心として研究者:東京国立博物館学芸部工芸課陶磁室長伊藤嘉章今回の調査研究は近代陶磁,特に幕末から明治時代にかけての近代前期の陶磁史研究の基礎となるものである。従来の研究では,博覧会研究,各地域における近代陶磁史研究が必ずしも融合することがない状況にあった。ここで,文献的研究と作品研究とを組み合せ博覧会という同時代性を軸として研究をしていくことは,日本陶磁の近代前期における展開の方向性を考えていく上で,貴重な材料となろう。この研究の中では,博覧会に関する文献・作品などの資料をできる限り広く紹介していくつもりである。それらによって各地域で行われている地域研究にも,貢献できるものと考える。研究は,貴重な役割を果したであろう博覧会について,文献・作品から調査を行っていく。当面の課題としては,明治6年ウィーン万国博覧会,明治9年フィラデルフィア万国博覧会,明治10年,14年の第一・ニ回内国勧業博覧会等,初期の博覧会を中心に研究する。その中では,博覧会報告等の文献調査,博覧会出品作品の調査,博覧会に関連して収集された外国陶磁の調査等を行い,各時期の様相を明らかにしていく。海外に残る博覧会出品日本陶磁についても調査研究を行う必要があるが,これについては将来の課題としたい。-48 -

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