鹿島美術研究 年報第16号
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—群小画家たちによるロヒール風絵画の制作過程と販売形態から一一—ている。経済状況の悪化がその大きな理由であるが,美術館活動に対する正当な批評やそれを裏づける研究がなく,多様化する美術館活動に確固とした指針を示せないできたことも見逃すべきではないだろう。美術館に関する研究は,これまで教育学における博物館学が中心となって行われてきたが,社会教育という観点からが中心であった。一方,美術史学では,二次的な対象としてしか認識されてこず,本格的な研究は皆無といってよい。それに対し,本研究では,美術史学と密接に関わる展示作品と,運営とも深い関係にある美術館の建物,特に展示室の順路との関係に焦点を当てるなど,美術史学・博物館学・建築史学といった別々の学問領域で論じられてきたことを積極的に結びつけ,美術館活動を総合的に分析しようとするものである。特に,「ホワイト・キューブ」の均質性ばかりが強調されることで見落とされてきた,ニューヨーク近代美術館の展示空間の恣意的な性格,あるいは展示品の選択の恣意性に注目することは,情報の発信を求められる今日の美術館活動にとって重要であろう。⑳ 15世紀末のフランドル絵画に見られるロヒール様式流行現象の解明研究者:お茶の水女子大学文教育学部教務補佐平岡洋子研究の意義,価値:15世紀フランドル絵画は,図像学的にも様式的にも,注文者,購買者,受容者の意図や指向性がかなり色濃く作品に現われていると考えられる。フランドル絵画研究におけるこの側面からの研究は未だ不十分である。絵画作品の研究が総体的になされるために,絵画を成り立たせている様々な要因が絵画から読み取られねばならないという要請があるとすれば,受容者側からの絵画への要求という側面も重要であろう。また,15世紀フランドルの群小画家たちの作品研究は,我が国では未だ数少ない。ベルギーでは,近年,科学的分析によりこの分野の重要な作品の制作年代や帰属の問題が解決された。今日,この成果をふまえてこの分野のより確実な研究の可能性が開かれている。当研究は,群小画家の作品に見られるロヒール様式流行現象を,絵画の販売形態,制作形態から解明し,絵画作品への,受容者,注文者の要求を様式の好みに読み取るという意図をもつ。15世紀における“商品としての絵画”という新しい視点と,群小画家たちの作品を対象としてこの時代の絵画事情を明らか-51-

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