鹿島美術研究 年報第16号
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全般的かつ表面的なものとなる危険性がある。本研究ではタミル地方とスリランカという,アーンドラ地方と強い結びつきを持っていたことが明らかな地域に調査領域を限定しており,精緻な調査とそれに基づく基礎的な資料を作成することを主眼としている。そこで明らかになる事実は,南伝ルートの流れの諸相の一端を示すものにすぎないともいえるが,このような大テーマを研究する上では,このような地道な作業による基礎資料の集成が最も重要な作業であり,本テーマを今後継続的に研究する上での基盤となりえるものと考える。⑳ 文人の詩画表現ーー王維「竹里館」詩意図をめぐって—研究者:松山大学外国人特別講師竹は,古来から文人の理想のシンボルであり,詩書画の重要な題材の1つであった。歴代の詩,画における竹をめぐる作品は浩然として洋々たるものがある。王維の作品がその最も典型的な一例である。詩人王維は十八歳の時から晩年に至るまで,終始竹の詩を詠み続け,二十八首の竹の詩を残している。特に,「竹里館詩」は最も人口にl會灸する詩の一つとして,王維の文人思想の特質が顕著に現れており,正に宋代の蘇軟が表したように「詩画一致」の境地を表した。一方,王維は文人画の始祖として文人画史には重要な位置を占めているため,王維の「竹里館」詩意図の研究は文人画の研究においても重要な課題だと思う。しかし,従来,王維の作品慎跡は後世になって殆ど伝わらなかったためか,研究の視点はおおむね抽象的な芸術理念に集中し,具体的な作品制作の研究が乏しいのが現状である。そのような中で,「竹里館図」をめぐっての文人画の具体的な画面研究は極めて有意義なことだと考える。研究の構想としては,まず唐代の代表的な自然山水庭園を取り上げ,文人園林としての「竹里館」を含む「網川荘」を考察し,「竹里館詩」の制作背景を解明する。その上で,「竹里館詩」をモチーフとした中国歴代の文人画作品と,十八世紀における中日韓画家の作品とを比較する。例えば,「竹里館詩」にある竹林と明月という文人的気分に合致した環境の中で,独坐や弾琴,或は長嗚という文人的行為を,どのように表明してきたかという考察を加え,制作の形式から,制作の理念に至るまで王維の与えた鄭麗芸-53 -

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