影響を研究していきたい。⑳ ジョルジョーネ作《ラウラ》における衣裳について研究者:女子美術短期大学非常勤講師高橋朋子この絵の女性が羽織っている外套は,当時のヴェネッィアの上流階級の男性のものであるとの指摘はすでになされている。しかし,何故この女性が裸体にこのような外套を羽織っているのかに関して詳細に検討されたことはなかった。この作品の裏には書込みが残っており,そこから1506年にこの作品は制作されたことが確認できる。本研究はこの1506年という年に注目し,この当時のヴェネツィア貴族達の結婚観を文学,法律,財産目録などを探ることで,時代背景からこの外套の意味を検討する。特に新たな切り口として,当時のヴェネツィアにおける女性の社会的な位置を取り上げたい。というのもこの当時のヴェネツイア貴族の女性達は,妻として母として重大な責務を担うとともに,家庭内で相当の発言力を有していたらしいからである。この点に関しては,近年社会史の観点から提出された新たな見解が大いに参考となる。こうした社会史,女性史,政治史に関する昨今の浩i翰な研究を踏まえながら,結婚と関連づけてこの作品を考察し,若い女性の裸体と毛皮の衿付きの外套との組み合わせが当時の人達に如何なる意味を想起させたかを考察したい。併せてカテリーナ・コルナロに注目し,彼女がこの作品の主題に与えたであろう影響についても考察する。尚ジョルジョーネとカテリーナ・コルナロはこれまで直接結び付けて論じられたことはない。また,昨今話題となっているジャンルとしての『婚姻画』の成立時期にも検討を加え,ヴェネツィア派の画家の中でジョルジョーネこそその先駆者であったと指摘したい。さらに,裸体に毛皮を羽織るといった,その後テイツイアーノによって,また遥か後にはルーベンスによって幾度となく取り上げられることになるモチーフの意味の起源も明らかにしうると考える。このモチーフに関してもこれまで十分に研究されてはこなかった。-54_
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