鹿島美術研究 年報第16号
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⑮ 日本における古代ギリシア・ローマ美術の受容について研究者:筑波大学芸術学系助手大木綾子日本における西洋美術の受容の問題については,これまでにも様々な視点から論じられてきた。また,近年,美術史研究の歴史を顧みる活動も活発に行われるようになってきている。例えば,1997年12月に開かれた国際研究集会では,我が国の美術史学について客観的な評価がなされ,その学史を検討することの重要性が認められた。そのような状況の中で,未だ明らかにされていない古代ギリシア・ローマ美術分野における我が国への受容,およびその研究史を跡付けることは,意義のあることと考える。したがって,本研究では,近代日本における古代ギリシア・ローマ美術の受容を時代毎に追いながら,その全体像を捉えることを主たる目的としている。具体的には,まず1880年以降に出版されるようになった各美術雑誌投稿記事や,欧米人による講演の記録,翻訳された図書および記事などの調査から,古代ギリシア・ローマ美術に関して,日本にいかなる情報が流入していたのかを明らかににする。次に,それらに関わったと思われる岡倉天心,フェノロサなど,近代日本の美術界で活躍した人物の調査はもとより,森鴎外,上田敏,濱田耕作,原随園,小林秀雄など各界の知識人,および矢代幸雄,板垣鷹穂,澤木四万吉,大隈為三,児島喜久雄などの美術史家についても調査し,彼らの捉えた古代ギリシア・ローマ美術のイメージを明らかにする。更に,それらの調査結果を欧米における研究動向と照らし合わせて比較検討を行う。また,1920年代に開かれた特別展覧会の実態と背景を調査するとともに,日本所在のコレクションについても可能なかぎりその来歴を明らかにして,その成立の過程を跡付けたい。⑳ 日本近代文学における「美術」記述について—現代美術の文脈からみた近代日本人の美術観研究者:閲川崎市市民ミュージアム学芸員杉田真珠現在まで美術と文学の関係は様々な見地から調査,研究がなされてきた。しかし美術を享受する側の視点でおこなわれた研究は少ない。「近代」「美術」「芸術」ということばがつくられ意味も次第に明確になっていった。背景にはいつもことばを送り出す55 -

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