鹿島美術研究 年報第16号
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—ボデゴネスの成立要因とその特徴について:内的要因を中心に_が判明している。今後さらに石版研究を進めるためには,まず基礎データの収集と整理が必要不可欠である。申請者はこれまでの研究をふまえ,神戸市立博物館,郡山市立美術館,川崎市市民ミュージアム所蔵の石版画を調査し,それらを含めた作品記録の切目録を作成する。また,申請者は最近新たに内務省図書局の『出版書目月報』を見出した。これは,出版物の版権取得の記録であり,完全ではないが一枚刷り石版画の出版記録も掲載されている。この記録と作品リストを照合することで,より完全に近い作品目録の制作が期待できる。この目録作成は,ひとり石版画研究のみならず,明治初期美術の研究にも大きく寄与するものと考える。⑳ ベラスケスの初期作品研究者:武蔵野美術大学・跡見女子大学・杉野女子大学非常勤講師本研究の目的は,ベラスケスのボデゴネス成立の契機を具体的な歴史資料に基づいて検討し,作品の特徴を明確にしてスペイン・ボデゴネスにおけるベラスケス作品の特異性を明らかにし,同時にこれらの初期作品のベラスケス作品全体における位置付けを行なうことにある。そのためにはスペイン・ボデゴネス全体に関する社会的・宗教的側面からの考察も当然必要となってくる。ベラスケス研究において初期作品は画家の活動を裏付ける資料が不足しており,不明な点が多く,これからの研究が期待される分野である。これらの作品に認められる画家の観察力と描写力は後年の矮人の連作や《ラス・メニーナス》に見られる人間観察や美と醜に対する独自の眼へとつながるものであり,これらの作品の抱えるいくつかの問題点を考える糸口ともなるものであろう。又,スペイン・ボデゴネスとベラスケスのボデゴネスの特質を明らかにしていくことは17世紀ヨーロッパの静物画全体を考える上でも極めて有効な手段である(フランドル絵画との関連性を考えた場合)。ベラスケスのボデゴネスをスペインの社会的・宗教的側面から検討し,さらに従来の研究によって明らかにされている外的要因と合わせて検討し,その特質と意義を考-58 _ 貰井一美

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