鹿島美術研究 年報第16号
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えていくことはベラスケス研究及び17世紀静物画の研究の面で極めて重要なことであろう。⑳ 奥原晴湖ー一奥原家コレクション目録の準備と英文論文出版準備研究者:国立西洋美術館客員研究員奥原晴湖に関する現在の私の研究は,2つの側面をもっている。第1に,古河歴史博物館に所蔵される「奥原家コレクション」の総目録を準備すること,第2に,現在計画されている英語の研究書の1章として,晴湖の粉本の使用(自己の制作および弟子の教育のため)に関する論述をまとめるための,最終的な準備調査である。奥原家コレクションは,明治期の女流文人画家奥原晴湖(1837-1913)に関連する総数約1000点の資料からなっている。その内容は,原寸大粉本,素描帖,縮図本,手紙,葉書,写真,漢詩集,覚書類,家計記録である。これらの資料は晴湖自身によってていねいに整理され,1988年に古河市に寄贈されてからは晴湖の遺産相続人の未亡人によって管理されてきた。私は博士論文の一環として,古河歴史博物館準備室(当時)のスタッフと共同で1988-90年にこの資料の予備的調査を行なった。現在企画されている総目録においては,晴湖の何百もの粉本の典拠の指摘,彼女の漢詩の典拠の指摘,すべての文書史料類の書き起こしを行なう予定である。このように未刊行の資料をすべて集成した形で出版することにより,江戸後期から明治期にかけての文人画家たちが用いた芸術的・文学的典拠を明らかにし,この分野の内外の研究者に対して重要な研究基盤を提供することができるであろう。研究の第2の側面に関しては,私は,江戸後期から明治期にかけての芸術教育に関する研究書のなかで,晴湖の粉本使用に関する1章の執筆を担当している。これは,1991年の私の博士論文に続いて英語による晴湖研究の最初の刊行物となるはずであり,この画家をより広い範囲の読者に紹介する機会となる。この論考での重要な目的は,晴湖の粉本使用を,谷文晟派および狩野派の芸術教育手法の文脈のなかに位置づけることである。鹿島美術財団の助成が得られた場合,この論考における図版掲載の可能性を大幅に拡大することができ,論述内容をより効果的・説得的に提示することができるであろう。59 -M・マクリントク(MarthaJ. McClintock)

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