の構図の決定,あるいは視点をどこに置くかを考える際に,当時浸透しつつあった真の技術や石版画,パノラマといった大衆レベルの視覚的ソースを利用した可能性がおおいに考えられる。20世紀のアメリカ美術,特にポップアートと呼ばれる分野で,大衆社会のマスメディアを利用した作品が次々に登場したことは周知の通りである。これと同様の手法が前世紀のアメリカ風景画ですでに取り入れられていたとしたら,20世紀美術のひとつの傾向を予言するものとしては,はなはだ興味深い。今回の研究はそうした視点も踏まえて,アメリカ風景画に新しい要素がどのように導入されたかについて検証してみたい。⑬ 古賀春江の作品に見るグラフィズム研究者:愛媛県美術館学芸員中山公ここでは,ポスターや装丁を金のための余業としてではなく,本格的に取り組んだ2人の作家,日本のグラフィック・デザインの先駆者・杉浦非水と,大正期新興美術運動及びプロレタリア運動に参加することによってグラフィックの分野で特筆すべき活動を見せた柳瀬正夢に注目し,彼らの1920年代の活動を中心に取り上げ,古賀春江の作品分析の材料とする。この2人は,筆者が勤務する愛媛県美術館の所在地である松山市出身の作家である。その作品及び関連資料は当館にはほとんど所蔵されていないが,筆者がこれまで研究してきた古賀春江の一時期の作品に,グラフィック・デザインとの見逃しがたい関連を見出したことによって,必然的にこの研究課題が浮かび上がったのである。日本のデザイン界に確かな業績を残した2人の作家を輩出した地に勤務することとなった機会を生かし,グラフィック・デザインの分野における1920年代の傾向,主な活動展開を追うことによって,古賀春江の1929年から1931年にかけての作品,主にフォト・モンタージュの手法を取り入れた作品が生まれた背景と,その位置付けを明らかにするととにも,古賀春江の絵画世界をひもとく糸口を新たに見出すことを目的とする。-61 -
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