鹿島美術研究 年報第16号
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⑭ 「オフ・ミュージアム」の研究ー一ハノーバー万国博覧会における野外美術展の場合研究者:広島県立美術館主任学芸員松田近年,日本国内においては美術館の建設ブームが続いている。しかしその多くの美術館が,あるいは美術館の専門職たる学芸員が,美術館とは何か,という根本的な問題に取り組む余裕を持たないまま,日常の業務に追われている。このような状況においては,今こそ日本の美術館学芸員は,美術館活動における技術的な問題とは別に,本質的なところで美術館とは何かを考える必要があるのではないか。美術館学の研究が必要とされているのである。美術館学の対象とする範囲は通常,美術館の活動内容である作品の収集・保存・研究・公開・教育にともなう方法論の研究,美術館それ自体の建築学的・分類学的・歴史学的研究などである。当然のことではあるがそれは美術館の施設の中で行われる(あるいは行われた)ことを研究の対象としている。しかし,美術館の施設の中で行われていることだけでは,実際に行われている現在の美術活動の重要な部分をフォローすることはできない。またそれらは現実的に美術館活動とも密接に関わってきているのである。美術館以外の美術活動に関心を持たない美術館学では,あまりに痩せた美術館学となりはしないか。研究課題名の「オフ・ミュージアム」という言葉は,現在はまだ美術館学的には確立された用語ではない。この言葉の説明としては,それは「美術館の建物あるいはその敷地以外における作品の展示及び展示空間,並びにその展覧会の総体」ということになろう。あるいは,それが都市の中に存在する時は,都市住民との共生の問題,い換えれば都市の生態学(エコロジー)との関連で考えることもできる。私はそれは美術館学の新しい分野になり得る可能性を持っていると考える。今回の調査研究は,ハノーバー市内及びその郊外において開催される野外美術展を一つの事例として取り上げ,美術館の施設の外で行われる展覧会の実際を調査し,美術館の枠組みの外側から美術館というものの意味(存在・枠組み・制度・機能)を逆照射し,それをより鮮明に浮かび上がらせようとするフィールド・ワークであり,美術館学の実験的な試みの一つである。-62 -弘

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