稿•8頁)。このことによっても萬里その人と詩文集『梅花無尽蔵』の分析の重要性は⑮ 萬里集九周辺の画事について研究者:⑮正木美術館主席学芸員高橋範子室町の詩文集『梅花無尽蔵』には次のような意義がある。I.『梅花無尽蔵』は萬里集九自身によって編集された。室町の詩文集は普通,詩僧が寂したのちに弟子たちによって編される。その意味で異例。II.それ故,萬里集九周辺の具体的な文雅の場が明らかになる。個々の詩はほぼ正しく編年され,そして,それらの詩には小さく添え書きがなされ,詩が生まれた時と場を明確にする。皿萬里集九が「還俗僧」であったことが,キーワード。応仁の大乱を機に京五山を離れた萬里集九は美濃で還俗し,文芸三昧に生きる。土地の太守や武将の館で詩を求められ,また障子絵や襖絵などの賛詩を成した。『梅花無尽蔵』は萬里集九という一人の還俗僧の存在をとおして室町後期の禅宗文化の在り方,水墨画の在り方を具体的に示す。w.萬里集九は,雪舟その人と関わる重要な人物。雪舟は文明十三年に東遊をなし,美濃で萬里と遡返する。萬里はそのことを『梅花無尽蔵』に記す。その記録は雪舟の東遊を記す唯一の史料である。そして,この記事の検討から雪舟の「天橋立図」の制作年代の再検討といった問題も生じる(後述の拙説明される。この調査研究は,雪舟研究に結びついてゆく。⑯ 岸派の形成と継承に関する研究研究者:岐阜県博物館学芸員岩佐伸一〈その意義〉現在,岸派の絵画は全国各地に存在するものの知名度が低いためにひどい扱いを受けている作品も多い。なかには近年においても記録などがとられることもなく破棄された例も見られる。このような状況は岸派についての事柄が明らかでないために起りうるのであり,本研究を通して岸派作品の持つ歴史的,美術的価値を明ら63 -
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