鹿島美術研究 年報第16号
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⑱ 江戸時代中期の公家文化をめぐる画家の研究研究者:学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程近藤本研究は,江戸時代中期の公家社会をめぐる画家について,とくに当時の代表的な文化人である近衛家煕(予楽院)を中心に絵画作品と当時の日記や史料から多角的に考察することを目的とする。江戸時代中期(享保〜宝暦年間)即ち光琳没後から大雅,応挙,若沖といった画家が華々しく台頭してくるまでの時期は,絵画史において一般に過渡期的な時期,或いは停滞期とされる。しかしながら,予楽院を中心とする公家社会で交流をもった画家たちの活動に注目すると,決して単なる停滞期ではなく,そこには絵画史的にみても極めて重要な意義,次世代へ受け継ぐべく萌芽を数多く見出すことができる。それは,予楽院の侍医・山科道安が予楽院の言行を書き留めた『愧記』をはじめ,近衛家から庇護を受けた画家の日記や未調査を含む当時の公家たちの日記などの農富な史料と実作品を体系的に調査研究することによって明らかにできるものと考える。取り上げる画家としては,予楽院の側近として仕えた渡辺始興,近衛家から庇護を受けた薩摩藩の御用絵師・木村探元が中心となるが,琉球人画家・山口宗季など予楽院が関心を示した画家も可能な限り取り上げたい。またそれは当時の公家文化圏が日本のみならず中国や琉球といった対外関係とも大きく関わっており,その影響関係や諸外国の文化受容の様相を検証する試みでもある。これらの視点にたち,これまであまり論じられてこなかった江戸中期の公家社会における画家の活動,注文主である公家の芸術観を画家がどのように受け止め,制作を行ったか,そしてその実態は如何なるものであったのかということを明確にしたい。⑳ 文人画における画題の研究_池大雅・与謝蕪村の屏風を中心に研究者:静嘉堂文庫美術館学芸員小林優子申請者は,研究の最終的な目標として,中国に発祥し朝鮮半島および日本に波及した「文人画」について,各国間の共通点・相違点等にもとづき,東アジアにおける造形と理念の総体としての歴史的意味を問いたいと考えている。そのためには多角的な-65 -壮

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