鹿島美術研究 年報第16号
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研究を積み重ねていく必要があるが,その重要な一環をなすものとして,今回,画題に焦点をあてた作品研究を選択している。近年,絵画史の研究方法は多様性を帯び,一方で江戸文学史の側からの文人画に対する研究もはじめられている(『江戸文学』17• 18号,特集「文人画と漢詩文」,ぺりかん社,1997年)。これらの状況をかんがみるとき,文人画において従来成果の少ない画題の問題を積極的に論じる時期にいたっていると申請者は考えるのである。今回,具体的な研究対象として池大雅・与謝蕪村による屏風作品を取り上げた主な理由は三点ある。第一に,大雅と蕪村には屏風絵の作品が多く,その画題に雅会や中国の名勝など文人趣味を多分に盛りこんだ,従来の屏風とは異なった顕著な特徴が強く認められること,第二に,屏風という,生活の中に非日常的な「場」を生ぜしめる絵画形態の性格を考える際,画題は重要な意味をもち,その受容の実態の中に,当時における文人趣味の浸透の様子が看取されると期待できること,第三に,この二画家は日本の文人画の大成者として位置づけられ,日本において文人画が定着してゆく状況をその作品の中に探ることが可能となること,である。本研究では,別紙「内容」の項で記したように,画題の考察を基点としながら,作品の絵画的表現内容の把握を不可欠な作業として位置づけ,両者の総合の上におのずと導きだされる,鑑賞のありよう,文人画の普及の実態など多様な問題をとらえ,立体的かつ発展性をもつ成果を呈示したいと考えている。⑩ 千手観音図像の調査研究研究者:四天王寺国際仏教大学教授南谷恵敬千手観音は,多くの観音の中で,蓮華王と呼ばれるようにその功徳の大きさで非常に篤い信仰を集めた観音であった。日本における造像も天平時代の葛井寺像にみるように,非常に早い時期から行われていた。普通,多腎像は密教伝来以降に制作が活発となるが,千手観音については古くより各種経典に説かれ,その図像は密教伝来以降も引き継がれた。このような点から千手観音の像容は,古い図像と新しい図像の混同といったこともおこり,さらに脊属である二十八部衆を付け加えること,観音の居住する補陀落浄土の表現など複雑な図像構成をとるようになった。今回これら千手観音図の図様を整理することにより,千手観音図がどのように変化-66 -

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